塩野義製薬が、年内に新型コロナワクチン3000万人分を量産する準備を進めている。同社ウェブサイト上で明らかにしているほか、読売新聞が2021年6月10日に報じた。いよいよ国産ワクチンができるのかと前のめりになった人も多かったに違いない。さっそく同社の株価は一時大幅に上昇した。
塩野義製薬とはどんな会社なのか、本当に年内に供給が始まるのだろうか。
国内での大規模な治験難しいが
実は同内容のことは、これまでにも何度か報じられている。朝日新聞はすでに1月6日、「塩野義は年末までに3千万人分の生産体制を構築する方針」と書いている。「日経ビジネス」は21年3月31日号で塩野義の手代木功社長にインタビュー、この時点で「年間3000万人分のワクチンをつくれる体制を2021年中に整えます」という答えを引き出している。
読売新聞は、ワクチン製造のため、塩野義が岐阜県に新工場をつくる話にも触れている。この新工場に関してもすでに報じられており、中日新聞は3月3日、「塩野義製薬が新工場を建設する池田町宮地の『アピホールディングス』所有の敷地内の土壌から、環境基準値の最大一・八倍になるヒ素が検出された」ということまで載せている。
各メディアでほぼ既報にもかかわらず、読売のニュースが改めて反響を呼んだのは、ちょうどワクチン接種が広がっている時期ということが大きいようだ。接種されるのは米国のワクチンばかり。日本のワクチンはどうなっているのか――。
加えて政府が、ワクチン開発促進の方針を打ち出したことも影響している。日本テレビは5月11日、塩野義が、「独自に開発中の新型コロナウイルスのワクチンの承認に向けて、現在、一部の抗がん剤などにのみ認められている『条件付きの承認制度』を、新型コロナのワクチンにも適用するよう国などと協議している」と報じていた。
日本のワクチンは、ファイザーなどのワクチンが広まったことで、承認に必要な大規模な臨床試験を国内で行うことが困難な状況になったとされている。そのため、代替となる安全性と有効性を評価できる方法を、塩野義が国や審査機関と協議しているということで、国産ワクチン認可のスピードアップが図られるのではないかという期待感が出始めていたところでもあった。
「ミュージックフェア」のスポンサー
日本でワクチン開発に取り組んでいるのは第一三共、KMバイオロジクス、アンジェス、塩野義製薬の4社。アンジェス社が唯一、臨床試験の第2段階まで進んでおり、年内に第3段階にあたる「第3相試験」を実施する意向だ。
アンジェスがトップを走り、他の三社が追う、というのが現在の構図だ。にもかかわらず、しばしば塩野義の動きが報じられるのはなぜか。一つには塩野義のトップが積極的にメディアに対応していることがありそうだ。
今回の読売記事では、木山竜一・上席執行役員医薬研究本部長が答えているが、同氏は2月16日には朝日にも登場している。手代木功社長は時事通信などのインタビューにも応じている。
塩野義のルーツは1878(明治11)年、大阪で開店した薬種問屋「塩野義三郎商店」。当主の名前をとって塩野義製薬となった。薬品業界の売り上げは9位あたり。4位の第一三共の3分の1程度にとどまるが、長年、「ミュージックフェア」のスポンサーをしていることで知名度は高い。
新型コロナ治療薬の開発にも取り組む
コロナに関しては、自社のウェブサイトで「新型コロナウイルスに対する弊社の取り組み」というサイトをつくり、かなり詳しく説明している。「治療薬の研究・開発だけにとどまらず、啓発・予防・診断ならびに重症化抑制といった感染症のトータルケアに対する取り組みを進めている」と強調している。
塩野義のワクチンは、『遺伝子組み換えたんぱくワクチン』という種類で、インフルエンザワクチンなどに幅広く使われている技術を使っている。ビオンテック=ファイザーやモデルナなどの最先端技術を応用した方式とは異なる。ウェブサイトでは、ワクチンの開発のみならず、「診断薬の開発・供給」「治療薬の創製」「自治体の支援」など多岐にわたる取り組みを詳述している。
先の日経ビジネスのインタビューで手代木社長は、「ワクチン、治療薬、診断薬」の三点セットが揃うことが重要だと説明。「そのような状況になるのは22~23年ではないでしょうか」との見通しを語っている。