おふくろの味 松重豊さんは給食に感激するも、がめ煮は忘れがたく

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「孤独」の勢いで

   企画「オフクロの味」では、松重さんら4人による1000字の随筆を、それぞれイラスト付きで掲載している。他はミュージシャンの高城晶平さん(ねぎ焼き)、女優の石橋静河さん(揚げないコロッケ)、作家のくどうれいんさん(どんぶり茶わん蒸し)だ。

   母の味をテーマにしたエッセイとなれば、母との思い出を絡めつつ家庭の味を懐かしむのが定型だ。同じ思い出の味でも、給食と比べ相対化しているところが手練れの筆者らしい。子どもが育ち盛りになると、毎日の献立が子ども中心に回り始める家庭は多い。主役はカレーやハンバーグ、唐揚げ、スパゲティなどだろうか。松重家は違ったようで、母親は父親の好みに合わせて食事を用意したとみえる。

   そうした環境で育った松重少年は、給食という「食の革命」にいたく感激したわけだ。パサつくコッペパンや脱脂粉乳など、子どもにも不味いと分かるものは例外的で、ほぼ旨かった。学校給食も「孤独のグルメ」の勢いで食べてもらえば幸せに違いない。

   それでも、松重さんは編集部の要望にきっちり応え、オフクロの味である「がめ煮」を称えることも忘れない。一般的な筑前煮は給食で供されたかもしれないが、自分が好きなのは母が作った「がめ煮」なのだと。読後感も、これでいい味になった。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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