【連載】浦上早苗の「試験に出ない中国事情」
私たちの身の回りは、意外な中国に満ちあふれている。明かりを消して、どでかい闇鍋のなかから取り出すごった煮の中国情報。お味は結構イケるかも!? 経済ジャーナリスト・浦上早苗氏による新連載、スタートです。
新型コロナワクチンの高齢者優先接種が徐々に進んでいるが、一般接種は相当後になりそうな気配だ。一方、隣国・中国では数種の国産ワクチンが承認され、北京市民の接種率は8割を超えた。
外国人への接種も行われており、IT企業経営者の三宅雅文さん(54)は2021年3月、中国・大連市に出張した際にワクチン接種を済ませた。なぜ「中華ワクチン」を接種したのか、その後どうだったのかを聞いた。
中国人社員は全員辞退!理由は
三宅さんの会社は日本企業から受注したシステム開発を、中国オフィスで引き受けるオフショア事業を展開している。以前は毎月中国に出張していたが、昨年はコロナ禍でほぼ日本に釘付けとなり、日中ビジネス往来再開後の12月下旬、約10か月ぶりに中国に行くことができた。
三宅さんは当初、翌1月に帰国する予定だったが、コロナ禍で入管のルールが変わっており、居留許可証の更新のため4月まで中国に滞在しなければならなくなった。前後して現地でコロナワクチン接種が始まり、「だったらワクチンも接種していこうか」と考えるようになったという。
「中国は入国を厳しく制限し、感染を抑え込んでいます。ワクチン接種していないと入国が許可されない、いわゆる『ワクチンパスポート』も早く導入されるかもしれないので、ビジネス往来のために打っとこうかと」
ただ、日本人の三宅さんは中国のワクチン接種の手続きが分からなかった。複数の保健所に問い合わせ、その都度たらい回しされながらも、3件目に連絡した保健所から「会社単位で予約を受け付けているので、会社から接種希望者のリストを出して」と指示されたという。
社内で希望者を募ったところ、なんと中国人社員は全員辞退し、三宅さん一人だけが申し込むことになった。中国では感染がほぼ終息しており、若干他人事になっているのに加え、新しいワクチンの安全性への不安もあり、社員たちは口々に「まだ早い」と断った。
「社長の僕が実験台になった形です」と三宅さんは苦笑した。
「何で日本人が来てるの?」
1回目の接種は3月5日。中国人向け接種会場を一人で訪れた三宅さんが受付でパスポートを出すと、スタッフは「何で日本人が来てるの?」といぶかしんだ。だが、それ以上深く突っ込まれることはなく、接種を終えた。その後、3月26日に2回目の接種。副作用は特になく、居留許可証の更新を終え、3月末に日本に帰国した。
三宅さんが接種したのはシノファームのワクチンで、世界保健機関(WHO)に5月7日に承認された。WTOの諮問機関によると有効性は78.1%。米ファイザー製の95%には及ばないが、英アストラゼネカ製と同程度だ。「日本の友人の反応は、『羨ましい』と『(中華ワクチンで)大丈夫なの?』と真っ二つに分かれますね」と三宅さん。
三宅さん自身は、「インフルエンザのワクチンも、打ったからかからないというわけではない。コロナワクチンも、重症化を抑えるくらいの気持ちです」と言い、ワクチン接種前と変わらない自粛生活を送っているという。
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