青森市の三内丸山遺跡など17遺跡で構成する「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界遺産に登録される見通しになった。2021年5月26日、各社が報じた。実現すれば、日本の文化遺産では20件目の世界遺産になるという。
青森、岩手、秋田、北海道に点在する縄文時代の遺跡群。なぜ世界遺産になるのか。三内丸山遺跡は有名だが、ほかにどんなものがあるのだろう。
農耕をせず、狩猟と採集生活で定住
三内丸山遺跡は縄文時代中期ごろの大規模遺跡。1994年の調査で、直径約1メートルの栗の柱が6本見つかり、大いに注目されるようになった。巨大な構造物の跡ではないか、というわけだ。その後復元された六本柱建物はこの遺跡のシンボル。数千年前に、よくぞまあ、これほど巨大な建物が造れたものだと驚く。教科書にも掲載されており、今では広く知られている。このほか多数の竪穴住居跡も見つかっている。
文化庁によると、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問機関は、「北海道・北東北の縄文遺跡群」を、「1万年以上にわたって農耕をせず、狩猟と採集生活で定住し、埋葬や祭礼も発達していたことが他の地域にはない特徴」「農耕以前の人類文化や生活についての貴重な物証が残っている」として高く評価したという。
文化庁のウェブサイトによると、対象となったのは以下の17遺跡だ。
○北海道
垣ノ島遺跡、北黄金貝塚、大船遺跡、入江貝塚、高砂貝塚、キウス周堤墓群
〇青森県
大平山元遺跡、田小屋野貝塚、三内丸山遺跡、二ツ森貝塚、小牧野遺跡、大森勝山遺跡、
亀ヶ岡石器時代遺跡、是川石器時代遺跡
〇岩手県
御所野遺跡
〇秋田県
伊勢堂岱遺跡、大湯環状列石
大型の環状列石遺跡が15か所
このリストを見ても、地元の人以外は、今一つピンとこない名前がほとんどだろう。そこで『環状列石ってなんだ――御所野遺跡と北海道・北東北の縄文遺跡群』(新泉社)を参考に、もう少し詳しく紹介しよう。
同書によれば、「北海道・北東北の縄文遺跡群」の特色のひとつが、巨大な環状列石なのだという。いわゆる「ストーンサークル」だ。
秋田・大湯の環状列石は、直径40メートルほどの環状に川原石が配列され、日時計のような形式で知られる。
岩手県北部の御所野遺跡は東西約500メートル、南北約120メートル。今から約5000年前から約4200年前まで約800年続いた縄文時代のムラの跡だという。ここでも環状列石が発見されている。
同書によると、北東北から北海道にかけて直径20メートル以上の環状列石遺跡が15あるそうだ。北東北が12、北海道が3。縄文時代は1万数千年も続いたと言われているが、環状列石は中期末から晩期にかけて出現したという。その中の主要なものが今回の遺跡群に含まれている。
北の縄文人は、なぜストーンサークルを生み出したのか。これまでは墓地説と祭祀場説がとなえられてきた。近年ではこれに加えて天体運行との関連や、環状集落説も加わっているそうだ。
現在も墓を環状に配置
共同通信によると、7月16~31日にオンライン開催されるユネスコ世界遺産委員会で世界文化遺産としての登録が正式に決まる見通し。国内では、2019年「百舌鳥・古市古墳群」(大阪府堺市、羽曳野市、藤井寺市にある45件49基の古墳群の総称)に続いて20件目。先史時代では初めてで最古となる。
「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界文化遺産登録の動きは、東日本大震災の後、東北地方の人を元気づけようという狙いも込めて始まったとされる。それだけに、関係者は感慨ひとしおのようだ。
ちなみに小林克・元秋田県埋蔵文化財センター所長の調査によると、現在でも北東北の一部には墓を環状に配置するところがあるという。祖霊の遺した環状列石の風習が、今も形を変えながら受け継がれているということなのだろうか。