国産食材の現場、特に組織の働きを丹念に取材した労作

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品質と漁獲量と認知度と

   沿岸漁業は、海水温度の変化による漁場の荒廃、過剰な漁獲による資源の減少、都市圏における地域ブランドの認知不足など、豊かな漁業を継続する上でいくつもの課題があり、組織の対応が欠かせない。金目鯛の最大の産地静岡県の稲取では一本ずつ釣り上げる漁法で資源を守る。漁協の職員が水揚げから出荷までの管理方法を統一し、手間を惜しまず取引先の期待に応える生産体制を維持し、小田原魚市場で別格の扱いとなった。神奈川県三浦市の松輪さばも、漁獲から出荷までを漁協のウェブサイトに掲載し、地元の飲食店リストとともに、消費者の期待に応える努力を惜しまない。

   乱獲を地域の力で防いでいるのは、千葉県の千倉町の黒アワビと、勝浦市の金目鯛だ。漁期を法令で定める期間よりもさらに短縮し、長時間潜る漁法を諦め、3年間育ったアワビを出荷する。金目鯛の漁船は大小異なるが、組合員が相談して自主的な資源管理方法を練り上げた。漁業者自身が乱獲を防ぐ取り組みは数世代の努力の結晶であり郷土愛があればこそ。全国各地に広がってほしい取り組みだ。

   19の現場を読み、生産に関わる場所と組織の地理歴史や創意工夫を文字や画像で知ることができたら、私たちはどんなに親近感を持つだろうと思う。QRコード一つあれば、売り場や食卓でデバイスをかざすだけで情報に触れることができる。そして、その情報は、第三者が提供したり口コミ評価を交えることで信頼性が高まりビジネスの安定につながる。農林中金はまさしくそうした立ち位置にあり、これからの事業の柱に生産組織の客観情報の提供が加わったら、またひとつ、またひとつ食材のブランドが確立する。手間暇をかけた食材には必ずファンがいる。「食材礼讃」の輪が広がるように、著者をはじめ関係者の活躍を期待したい。

   4年前にお声をかけていただき、書評を書く喜びに出会った。思ってもいない本を読み、読んでいない方々とシェアしたい物語や価値観を反芻し、読者が一人でも増えることを願って筆を取る。その機会をいただいたことに心から感謝して、このコラムの最終回のご挨拶とさせていただきます。みなさまありがとうございました。

ドラえもんの妻


(編集部より)「霞ヶ関官僚が読む本」は、今回で終了いたします。長らくお読みいただき、ありがとうございました。

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