やらない言い訳
黒川さんは72歳。直木賞に選ばれた『破門』は60代半ばで、候補6回目にしての受賞だった。下積み時代から作家生活を支えるのが、50年連れ添った「よめはん」だ。
作家はギャンブル好きで知られ、よめはんも「麻雀は指紋が消えるくらいやった」というツワモノ。出会いの場は雀荘という夫婦にふさわしい日常である。
お二人のやりとりはあくまで穏やかに、どこか間が抜けたところもあって楽しめる。高血圧という命に関わる問題でさえ、作家の手にかかればボケの素材でしかない。
それにしても、「ほんまに痩せんといかん」という反省はどこまで本気なのか。
ダイエットや健康管理については、数えきれない失敗を含め、私も経験豊富な部類である。昨年も、速歩と節酒のみで15キロ落としたばかり。血圧も肝機能もたちまち正常値に戻ったから、人間の身体は正直だ。
成功の前提条件は、とにかく「始めること」、そして「習慣=生活の一部にすること」だ。自由時間が限られる現役世代にはハードルが高いが、作家のような自由業なら、すべては本人の意思にかかってくる。
黒川さんの場合、やらない言い訳に自分のキャラクターやらアイデンティティーを持ち出すところが、もう十分に怪しい。このままでいいや、という確信犯と見た。
冨永 格