「ねとらぼ」副編集長に聞きました ヒット記事連発を支える「哲学」(前編)

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   「ねとらぼ」は、「ITmedia ニュース」の1コーナーから2011年4月7日に独立して生まれたニュースサイトだ。公式ツイッターは約22万6000フォロワーを抱え、投稿した記事ツイートが「100いいね」を超えることは珍しくない。

   日頃から、読者に受け入れられるヒット記事を連発できるヒミツが気になる。そこでJ-CASTトレンドは、ねとらぼ副編集長・池谷勇人さんを直撃した。12年入社で、ねとらぼの黎明期を知り、現在も編集部で記事ネタの方向性を決めている人物だ。

  • 取材中、終始気さくに話をしてくれた「ねとらぼ」副編集長・池谷勇人さん
    取材中、終始気さくに話をしてくれた「ねとらぼ」副編集長・池谷勇人さん
  • 取材中、終始気さくに話をしてくれた「ねとらぼ」副編集長・池谷勇人さん

あえて「話題のネタに触れない判断」

   池谷さんは各スタッフが提案するネタの選定業務を通じ、「ねとらぼ」全体に共通するトーンやマナーを調整している。読者に喜ばれる記事を作り続けるうえで、まず重要なのが「面白いが、炎上する可能性をはらんでいる」ネタが出てきたとき、ふるいにかけることだ。「魚の小骨を取る料理長のような立場」だと、池谷さんは言う。

「話題のネタに乗っかりすぎると、読者のためにならないことがあるので、あえて触れない場合はあります」

   その一例が「バイトテロ」。池谷さんは「悪ふざけの様子を収めた画像や動画を一般ユーザーがネットに投稿し、結果として『個人レベル』で炎上しているだけなら状況を静観」する。それに対し、店舗や企業側が見解を発表するなど動きがあれば、「その段階で『ネタを追いかけるかどうか』を判断します」。

   特に「炎上ネタ」を取り扱う場合は、入念な下調べや取材が必要だ。以下のようなリスクが隠れている恐れがあるため、準備が不十分な状態で記事化を急ぐのは危ないという。

・問題となるデータは数年前にネットやSNSに投稿されたものなのに、「ほじくり返して再び燃やす」のが楽しい人が、あたかも最近起きた出来事かのように再投稿したせいで炎上しているだけ
・関係者間で意見が食い違っている件について、一方の言い分のみで記事を書いてしまった結果、もう一方の主張が後から発表され、報道内容とは異なる事実が発覚する
・一部の人が「炎上している」と認識しているだけで、そこまで燃え広がっていなかったのに、記事として取り上げることで本格的な炎上を招いてしまう

「ネコ」と「ジャーナリズム」

   世間の注目を集める「ヒト・モノ・コト」ネタは爆発的なPV(ページビュー)を稼ぐパワーを持つことが多いが、池谷さんはそればかりに頼ると「メディアとしての信頼や実績が得られず、サイトが長続きしない」と考える。ただ、経済や社会、政治など真面目な問題に切り込んだ記事ばかり揃えても、読者の興味を引くのが難しく、期待したほどの成果に繋がらない。

   池谷さんによると、「もうけるための報道」と「もうからないけど社会的に必要な報道」が、それぞれ「ネコ」と「ジャーナリズム」にたとえる考え方があるという。

「比較的簡単に書けて、目先のPVも多く稼げる術(=ネコ)は不可欠ですし、同時にニュースサイトとして、時間と労力をかけて取材、執筆し『真面目な姿勢を見せる(=ジャーナリズム)』のも必要です。大事なのはバランス。どちらかに偏らないよう、両方やることが長期的なメディア運営に繋がると思っています」

混沌期乗り越え、「白ねとらぼ」化

   ねとらぼは、サイトのカラーやトーンが一貫している。だが、2014年まではサイトとして「方針が定まらず、混沌としていた」。当時在籍していたスタッフの中でも意見が割れて、池谷さんは「どちらかというと『まとめサイト』のような、炎上ネタでも何でもござれの、攻めた場所にした方がよいのではと考えていました。いわゆる、『黒ねとらぼ』と言いますか(笑)」。

   だが、結果として編集部は、「しっかりとした取材を通じ、責任を持って読者に事実を届けるニュースサイト」へ舵を切った。池谷さん曰く、「白ねとらぼ」だ。きっかけの一つが、14年11月に制定した「ねとらぼ憲章」。編集部の行動指針が曖昧で、不統一な状況を見かねた会社の上層部から「憲章を作るよう、指示を受けた」背景がある。

   憲章は、「読者にとって有益であり『誰得』な、ありとあらゆる情報を編集部の独自の視点と良心をもって広く正しく迅速に伝えることを目的」として、「読者のためにある」「裏を取り検証しデマを拡散しない」「著作へのリスペクトを忘れない」「良心に従う」など、7項目から成る。憲章の制定や、スタッフ間の議論を通じ、「まとめサイト」ではなく、企業として「信頼できるニュースサイト」を運用すると決めた。

   池谷さんは「『黒ねとらぼ』としてやっていった方が、短い期間で爆発的な成果を上げられたでしょう。ですが、サイトとして長く維持するのが難しかっただろうとも思います」と語る。PVをはじめ、諸々の数字が上がるまでに時間を要したものの、「結果的に白ねとらぼになってよかった。黎明期からの数年で、媒体のカラーは読者によって決まるのだと感じました」。

「かつては『炎上リスクがあるが、目先のPVを稼ぐために扱わざるを得ないネタ』をどうすべきか困ることがありました。その頃から進化を重ね、危ない橋を渡らないと目標を達成できない環境から脱したので、『ここまでやってしまってもいいものか』と悩まなくなりました。堂々と誰にでもシェアできる記事作りを追求し続けています」(池谷さん)

(J-CASTトレンド編集部・藤原綾香)


   後編では、記事の見出しや本文へのこだわり、「ねとらぼ公式ツイッターアカウント」を取り巻く現状と、フォロワーとの信頼関係を構築するために行っている工夫についてフォーカスする。

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