脇役の心得
映画を観ながら、ポップコーンを「味わう」客はまずいない。ジャズクラブの料理も同様で、いたずらに個性を主張せず、シンプルな裏方に徹しつつ客の腹を満たし、演奏や歌声を引き立てる役回りだ。普通のレストランに流れるBGMは、ムード作りや食欲増進の脇役だが、ジャズクラブでは音と味、耳と舌の主従が逆になる。とはいえ飲食の場でもあるので、脇役を言い訳に手抜きは許されない。美味しく安くと、お客は容赦ない。
ジャズ演奏とフライドポテト。言われてみれば素敵な相性なのかもしれない。ディップをつけながら食すポテトは、ほとんどの客にとって「想定内」の味であり、しばし味覚に邪魔されず、全神経を聴覚に集中させることができる。クルクルと楽しく、軽い食感もステージのパフォーマンスを引き立てるのだろう。
植野さんによると「音楽のジャンルや演者のスタイルに関係なく」そういうことが言えるそうなので、まさにライブハウス向きの一品である。
こうした読み物は、それを食べたい気分にさせたら筆者の勝ち、自作しても食したいと思う読者がいたら圧勝といえる。私はもともと、イモ感が残る大ぶりなフリットが好きなのだが、一読してカリカリに揚げたものをつまみたくなった。
さて、古いレコードでも引っ張り出すか。
冨永 格