有森裕子さんが、東京五輪聖火リレーの代替イベントへの参加を辞退したと2021年5月17日、読売新聞が報じた。
これまでにも様々な有名人が聖火関連行事を辞退しているが、ちょっと衝撃度が異なる。何しろ有森さんは五輪のメーンイベント、マラソンの二大会連続のメダリスト。すなわち五輪の「レジェンド」の一人だからだ。
女子マラソンの大功労者
読売新聞によると、岡山県は、有森さんが5月19日に岡山市内で行われる聖火リレーの代替イベントへの参加を辞退したことを明らかにした。有森さんは、緊急事態宣言が発令されている東京都在住で、県に対し、「移動は控えたい」と説明しているという。
インターネットには、「きわめて良識ある判断」「当然だと思う」と評価する声が多く寄せられている。
有森さんは岡山県出身。92年のバルセロナ五輪で銀、96年のアトランタ五輪で銅メダルを獲得した。2000年シドニーの高橋尚子、04年のアテネの野口みずきという、日本人による二大会連続金メダルへの道を切り開いた女子マラソンの大功労者だ。今も内外のスポーツ界とのつながりが深い。それだけに、県としては、いろいろ大変な状況ではあるが、当然参加してもらえると期待していたことだろう。
ただ、有森さんは折に触れ、今回の東京五輪について、手厳しい発言をしていることでも知られている。
例えば今年2月、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視ととれる発言が報じられた際には、中国新聞の取材に応じ、「国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)などの問題提起をスポーツという手段を通し、感動と共にメッセージ性を持たせて浸透させるのが五輪の役割。なのに五輪をやろうとしている国の組織のトップが、開催する意味がないくらいのメッセージで全て台無しにした」と手厳しく批判していた。
新谷仁美さんの葛藤はとてもまっとう
「文藝春秋」4月号と「文藝春秋digital」は、「【山口香×有森裕子】改めて開催の意義を問う『東京五輪、国民は望むのか』」という対談を掲載している。「忖度ない意見を表明してきた2人のアスリートによる対談」と銘打っている。
対談で有森さんは、「陸上女子1万メートル代表の新谷仁美さんが『アスリートとしては賛成だけど一国民としては反対という気持ち。命はオリンピックよりも大事なもの』と話していましたが、その葛藤はとてもまっとうで、痛いほど伝わってきました」と語っている。
NHKラジオの「増田明美のキキスギ?」にも2月26日に登場、「有森裕子さんが会長だったら、東京五輪はどうする?」という問いかけに以下のように答えている。
「やっぱり祭りなんでね。平和なスポーツの祭典なんで、みんなの喜ぶ顔が8割方浮かばなければ、はい、考えます」
岡山県は、新型コロナウイルスの感染者が急増し、16日から緊急事態宣言の対象になっている。そうした事情に加えて、有森さんのこれまでの発言を重ね合わせると、今回の聖火イベント辞退は、熟慮の結果と言えそうだ。