「五輪開催」のためにハードなスケジュール
ワクチン問題の根底には、こうした「持てる国」と「持たざる国」の格差がある。最近も南アフリカの大統領が、先進国のワクチン独占は、形を変えたアパルトヘイトだと批判した。
NHKによると、WHO(世界保健機関)などが主導し、ワクチンを公平に分配しようとする枠組みに「COVAXファシリティ」というのがある。6月までに世界145の国と地域に3億回分を超えるワクチンを分配する計画だった。しかし、5月7日までに分配できたワクチンは、121の国と地域に対して5400万回分余り。当初の計画よりも大幅に遅れている。
生産量には限度があり、それを各国で奪い合っているのが実情だ。日本のワクチンの遅れも、そうした世界的なワクチン争奪戦の大きな渦と無縁ではない。
英国・オックスフォード大学などによると、5月11日時点で人口に占める1回目の接種を終えた人の割合は、英国52%、米国46%。日本は2.91%にとどまっているという。
ワクチン接種がスタートしてからの混乱には、また別の理由がある。まずワクチンの扱いの難しさ。ファイザー社のワクチンは冷凍保存されており、解凍して使用する。最近も神戸市で同社のワクチン960回分を廃棄する騒ぎがあった。配送のミスでワクチンを長時間、常温放置していたことによるものだった。関係スタッフがワクチンの扱いに習熟する必要がある。
そしていよいよ、接種。実務は自治体にゆだねられ、会場と、ワクチンの打ち手の確保が重要になる。関係の医療従事者は、日常の医療活動と並行して接種に当たることになる。5月の連休明けに各地で起きている混乱は、不慣れや準備不足に加えて、かつて起きたトイレットペーパー騒動などと似ている。一時的に需給関係のバランスが崩れた結果だ。
加えて政府が、五輪開催を大前提とし、7月中に接種を終えさせようとしていることも大きい。スタートが遅かったのに、後ろが切られている。自治体側はかなり無理な体制やスケジュールを組まざるを得ない。