事件のたびに事実ではない情報がインターネットで広がり、全く無関係な人が被害を受けるーー。茨城県で2019年9月に起きた一家殺傷事件に関連して、また同じようなことが繰り返された。容疑者と同姓の会社が、間違って近親者の会社として名指しされ、バッシングを受けたというのだ。
誹謗中傷の電話
茨城県警は21年5月7日、現場から30キロほど離れた埼玉県三郷市に住む26歳の男性を事件の容疑者として逮捕した。今のところ、被害者との接点は不明だ。認否も明らかにされていない。
逮捕直後から、大手メディアでも、この男性が少年時代に起こしていた不可解な殺人未遂事件や動物虐待、ナイフへの執心、さらには最近、爆弾の材料となる硫黄を大量に入手していたことなどが報じられた。実家は資産家で、かなり大きな家に住んでいることなども。
こうした報道を踏まえて、ネットでは、この男性の生育環境や実家などを探る動きが活発になる。そして容疑者の住居と同じ三郷市内にある、同姓の会社が、間違って容疑者の近親者の会社と指摘されることに。「弁護士ドットコム」によると、SNSなどで「(容疑者は)社長の息子」とする書き込みが相次ぎ、誹謗中傷などの電話が300本もかかってくるなどの被害を受けたという。
同じ市内に約450人
今回、「デマ情報」が発信されることになった一因には、容疑者がやや珍しい名字だったことにも関係しているかもしれない。
「名字由来ネット」によると、この姓は全国でおよそ4000人。デマ情報の発信者は、地元に同じ名字の人は少ないと考えて、関連情報などをもとに、たまたま見つけた同姓の人を近親者としてしまった可能性もありそうだ。
ところが、「名字由来ネット」によると、確かにこの名字は全国では少ないが、都道府県別では埼玉県が全国二位で約800人。さらに市町村別では三郷市が全国一位、およそ450人もいると推定されている。つまり地元ではありふれた名前だった。三郷市は人口14万人ほどだから、かなりの比率で同姓の人がいることになる。その結果、同姓の人が、容疑者の近親者ではないかと誤解される確率も高まってしまった。
名誉棄損などで裁判に
事件に関連してデマ被害を受けたケースで有名なのは、2019年夏に起きた「常磐自動車あおり運転事件」だ。暴力を振るった男の車に同乗していた「ガラケー女」に間違われた女性が、ネットで袋叩きにあった。この女性は今年2月、『ネット社会と闘う ~ガラケー女と呼ばれて~』(リックテレコム刊)を出版している。
女性はこの事件で、すでにデマをSNSに投稿したとして愛知県の元豊田市議を提訴、東京地裁は名誉棄損を認め、33万円の賠償を元市議に命じているという。
誹謗中傷への対処が、抗議や訂正・削除・謝罪要求などで収まらないケースは増え続けている。間違った情報に基づくリツイートなども、裁判沙汰になり、名誉棄損などに問われる。
ネット犯罪に強いことで知られる弁護士は近年、『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル(第3版)』(中央経済社)や、『サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル 第3版』(弘文堂)などを出版、被害者の支援に熱心だ。
17年に起きた「東名高速あおり運転事件」では、ネットにデマを投稿した11人が特定され、示談に応じなかった8人に対して民事訴訟が起こされたという。