想像力に肉づけ
長坂さんは 25ans 編集部を経てパリに渡り、米国や英国を経て現在はチューリヒで暮らす。海外発のエッセイを古巣で連載していることになる。
サハラ由来の砂粒で景色が一変。いわば異国でのお天気びっくりネタを、命がけで欧州を目ざすアフリカ難民に重ねたところが本作の売りである。前半部分だけなら、写真を添えたSNSで誰もが発信できる。これにドイツでの取材経験をつなぎ、知識から実感へと、取材者、観察者としての想像力が肉づけされていく過程が印象的だ。
「ほんの少しだけ具体的になった」「ごくわずかながら、ある種の実感を持って心を寄せることができた」という表現も奥ゆかしい。
タイトルにある、コロナ時代の「妄想の旅」ということでいえば、検査も待機もなく自由に国境を越えられる砂粒や渡り鳥への憧れに、切ないものを感じる。「彼らの旅」という表現はまさに「妄想」全開。私はそこまで感傷的にはなれないが、旅慣れた筆者の渇望はよくわかる。程度の差はあれ、世界の多くの人が感じていることだろう。
動くことさえままならない現実。〈旅に病んで夢は枯野をかけ廻る〉という芭蕉の心境は洋の東西、時代を問わぬものらしい。耐乏自粛生活の1年2年が、人生のロスタイムとして最後に付け足されないか...そんな妄想をしてみた。
冨永 格