新たな一歩を踏み出す時が来ている
本書の真骨頂は、この先にある。これらの施策を実施しても、3~5%のジニ係数の改善が見込まれる程度であり、この水準は英国の不平等をOECDの平均程度にまで下げるしか意味しない。このため、アトキンソン教授は、労働市場、資本市場、技術革新にまで踏み込み、不平等の程度を引き下げていくことを提案している。
具体的には、賃金の決め方をより集権化するため、社会経済評議会等を通じた国民的対話により、最低賃金以上の報酬慣行規範を作り出すことである。また、国民貯蓄国債を通じ、貯蓄に対するプラスの実質利率を保証すること、ソヴリン・ウェルス・ファンドによる国保有の純資産価格の増加である。
そして、技術については、労働者の雇用を増大するタイプの技術革新を推進するよう、技術革新の方向性を考慮すべきとしている。
本書の出版以降も、不平等はその深刻さの程度を増す一方である。そのことを背景に、米国ではトランプ大統領の選出、アトキンソンの母国英国でも、EUからの離脱がおこなわれた。
本書の提言には、技術革新の方向性に影響を与えるべきという、その当否の評価のむつかしいものが含まれている。ただ、いずれにせよ、そのひとつひとつを吟味し、新たな一歩を踏み出す時は来ている。我が国もその例外ということはない。
経済官庁 Repugnant Conclusion