21世紀の知見にもとづく対策を
感染症では、「スプレッダー」が存在することが少なくない。岡田晴恵さんの『知っておきたい感染症―― 21世紀型パンデミックに備える』 (ちくま新書)によると、2003年ごろのSARSでは、発生地の中国広東省に隣接する香港でも被害が広がった。感染者の共通項をたぐると、いずれも同時期に香港の同じホテルの9階の部屋に滞在していた。
その後の調べで、当時この9階には、中国で「謎の肺炎」の治療にあたっていた医師が宿泊していたことが判明する。激しくせき込み、高熱を出していた。この肺炎がSARSだった。医師はその後SARSと診断され死亡している。
類似の感染症にMERSがある。2012年にサウジアラビアで第一例が見つかり、遠く離れた韓国で感染者186人、死者38人の被害が出た。韓国の最初の患者には、サウジアラビア滞在歴があった。
新型コロナウイルスでは、SARSやMERSよりも拡散の経路が見えにくい。それだけに、「サイレント感染者」に注目した世田谷区の調査は貴重だ。政府や自治体には、単に「ステイホーム」や「リモートワーク」を呼び掛けるだけではなく、21世紀の最新科学の知見に基づいた対策が求められる。世田谷区はコロナ禍の早い段階から、そうした取り組みを心掛けていることでも知られている。