食しばりで記す
「ゆうゆう」は、主婦の友社が発行するライフスタイル情報誌、今年で創刊20年になる。主要読者層はまさに中島さんと同年代、50~60代の女性と思われる。
本作に登場するホテルは、作中の情報から1986 年開業のANAインターコンチネンタルホテル東京(かつての東京全日空ホテル)らしい。六本木まで徒歩10分、赤坂の飲食街まで10分、永田町までも10分という、バリバリの都心立地である。
この作品は身辺雑記の随筆ではあるが、コロナ下の都心ルポでもある。第四波が到来した東京ではいま、三度目の緊急事態を迎えている。
東京に暮らす人にとって、都心ホテルでの連泊はそうそうない異体験だ。プロならこれで何か書けないかと考えるのが自然である。素人が日記風に書くと散漫になりがちだが、中島さんは「食」にこだわることでグサリと「縦串」を通している。
ルームサービスに朝食のバイキング、トルコ料理店、高級フランスチョコにオーストリア銘菓、そして豆大福。作中には世界の美味がちりばめられた。ついでに、ホテル暮らしの理由である「カンヅメ」も食料である。
冨永 格