コロナの都心にて 中島京子さんはホテル2泊で食にこだわった

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食しばりで記す

   「ゆうゆう」は、主婦の友社が発行するライフスタイル情報誌、今年で創刊20年になる。主要読者層はまさに中島さんと同年代、50~60代の女性と思われる。

   本作に登場するホテルは、作中の情報から1986 年開業のANAインターコンチネンタルホテル東京(かつての東京全日空ホテル)らしい。六本木まで徒歩10分、赤坂の飲食街まで10分、永田町までも10分という、バリバリの都心立地である。

   この作品は身辺雑記の随筆ではあるが、コロナ下の都心ルポでもある。第四波が到来した東京ではいま、三度目の緊急事態を迎えている。

   東京に暮らす人にとって、都心ホテルでの連泊はそうそうない異体験だ。プロならこれで何か書けないかと考えるのが自然である。素人が日記風に書くと散漫になりがちだが、中島さんは「食」にこだわることでグサリと「縦串」を通している。

   ルームサービスに朝食のバイキング、トルコ料理店、高級フランスチョコにオーストリア銘菓、そして豆大福。作中には世界の美味がちりばめられた。ついでに、ホテル暮らしの理由である「カンヅメ」も食料である。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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