軍隊の大移動も一因に
「宗教行事」のほかにも感染症の拡散に関係するのが「軍隊」だ。インドから英国に広がった一因として、インドにおける英国軍の活動が指摘されている。1817年、英国軍がコレラ原生地のベンガル地方からインド内を長距離移動したときは、途中で約1万人の部隊のうち約3000 人がコレラで死んだという。最初のパンデミックの引き金になった。
『コレラの世界史』によると、1840 年にカルカッタで流行した時は、そこからアヘン戦争に派遣された英国軍によって中国に運ばれた。54年のクリミア戦争では、フランスは約3万人の軍隊を、コレラが流行していた北フランスから送り出し、トルコやバルカン半島に広めた。明治期の日本では西南戦争の後、九州で流行していたコレラを帰還兵が全国にばらまき、日清戦争の後でもやはり帰還兵が大陸から持ち帰ったという。
コレラがインド発であることが明らかになると、各国から英国の責任を問う声も上がった。このため英国は、なかなかインド起源説を認めなかったという。
ちなみに20世紀のスペイン風邪は、第一次世界大戦で米国から欧州に渡った兵隊によって運ばれたというのが定説になっている。