官僚に政策決定への「心構え」問うストーリー

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■『蝶の眠る場所』(著・水野梓、ポプラ社)

   外出自粛のコロナ禍、久しぶりに小説を手にした。きっかけは、知り合いの記者の著作と聞いたからだ。

   本書が初の著書とのこと。著者の略歴は、「報道記者。‥警視庁や皇室、原子力などを取材、社会部デスクを経て、中国総局特派員、国際部デスク。現在、経済部デスクとして財務省や内閣府を中心に取材をしながら、報道番組のキャスターを務める」と記されている。この経歴を反映してか、ドラマの主人公(主演女優)は社会部出身記者であり、主演男優は、警察庁のキャリア官僚だ。背景設定やシナリオにもリアリティーがある。

日本の司法・警察制度、死刑制度に問題提起

   話としては、主人公が直面した事件を発端に、死刑が執行された過去の冤罪事件が生み出した不幸の連鎖を描き出したものだ。その展開にくぎ付けになる。小説の性格上、これ以上ストーリーには触れない。本書のストーリー展開や描写の外で感じたところを、ここに共有したい。

   一つは、描かれる官僚像と社会及び組織内における影響力だ。詳しくは書かないが、一人の官僚、それも入庁間もない係員(警察庁の場合は警部補だが)の同僚へのひとつの誘導的行為が多くの人々の人生を3世代にわたって大きく狂わせる。背景にあるのは個人的な恨みである。同時に、役人人生における官僚としての職業モラルや正義感が問われている。もちろん自分は刑事事件にかかわる官僚ではないが、政策決定においてそうした心構えをもっているか、問いかけられているように感じる。

   もう一つは、我々が日常的に接する記者の目だ。それは我々記事を読む側や取材される側の視点とは違うものだ。被害者の視点に立ち、国家とは違う、社会的な立場から、事案をとらえる。その際、地道な調査をいとわない。そうした問題意識に立って、社会や制度に対して鋭い批判的指摘を展開する。

   本書では、人間の深層心理とそこからもたらされる行動のもたらす影響を映し出すことで、日本の司法・警察制度及び死刑制度に鋭い問題提起をしている。

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