25回手塚治虫文化賞が2021年4月28日発表され、「マンガ大賞」に山下和美さんの「ランド」(講談社)が決まった。大ブームを巻き起こした吾峠(ごとうげ)呼世晴(こよはる)さんの「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」(集英社)は特別賞だった。主催の朝日新聞社は同日朝刊で1ページにわたって受賞作と選考経過などを説明しているが、まれにみる大激戦だったことがうかがえる。
意外性のある結果
同紙によると、最も優れた作品に贈るマンガ大賞は、社外選考委員が持ち点15点(1作につき最高5点)で投票した1次選考の上位9作と、専門家や書店員の推薦1位の作品を合わせ、ウェブ会議方式の最終選考会で議論した。
社外選考委員は、秋本治(漫画家)、桜庭一樹(小説家)、里中満智子(マンガ家)、高橋みなみ(タレント)、中条省平(学習院大学フランス語圏文化学科教授)、南信長(マンガ解説者)ら8氏。
一次選考では「鬼滅の刃」(=秋本5、里中4、高橋3)と、「約束のネバーランド」(原作/白井カイウ、作画/出水ぽすか、集英社、=南5、秋本4、里中3)がともに12点で1位。「ランド」は5点(=中条5)で、「呪術廻戦」(芥見(あくたみ)下々(げげ)、集英社、=高橋5)と同じく5点で5位にとどまっていた。
昨年に続き1次選考と推薦で1位の「鬼滅」を推す声が強かったというが、議論の過程で「ランド」が、「現代の抱える多様なテーマを抱えながら高らかな人間賛歌となっている」(中条)と支持を集めたという。「鬼滅」は、社会現象を生み出した功績により朝日新聞社が特別賞に決めたそうだ。
一次選考で「ランド」を推していたのは中条氏だけなので、かなりの意外性がある選考結果となった。
コロナ禍を先取り
山下和美さんは1980年「週刊マーガレット」でデビュー。主に少女マンガ誌を中心に活躍していたが、「天才 柳沢教授の生活」で「モーニング」に不定期連載を開始。以降、「不思議な少年」など話題作を発表している。受賞の知らせを聞いて椅子から転げ落ちそうになったという。
「ランド」は大災害、放射性廃棄物、格差、老いなど現代的な諸問題を織り込んだ骨太の物語。未知のウイルス出現で都市が封鎖される事態も描いており、コロナ禍の現実を先取りすることになった。山下さん自身もびっくりしたという。この辺りの先見性も評価の一因となったことがうかがえる。
残念ながら特別賞にとどまった「鬼滅」の吾峠さんは、同紙に自身の自画像と受賞記念イラストを寄せ、「全ての方々に深く感謝申し上げます」とコメントしている。
手塚治虫文化賞は、第1回のマンガ大賞を藤子・F・不二雄 「ドラえもん」が受賞したことからも分かるように、マンガ界で最も注目度が高い賞。部門別の受賞もあり、今回は、新生賞に「葬送のフリーレン」(小学館)の山田鐘人(かねひと)さん(原作)とアベツカサさん(作画)、短編賞は野原広子さんの「消えたママ友」(KADOKAWA)と「妻が口をきいてくれません」(集英社)が選ばれた。