2021年の本屋大賞を受賞した『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ著)が早くも40万部を突破、好調な売れ行きを見せている。出版元の中央公論新社は重版を決定、本屋大賞発表当日の貴重な舞台裏を記録したメモリアル動画も公開し、さらなる売り上げ増をめざして力を入れている。
「孤独」「虐待」「生きづらさ」
「52ヘルツのクジラ」とは、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラのこと。たくさんの仲間がいるはずなのに何も届かない、何も届けられない。そのため、世界で一番孤独だと言われている。
そんなクジラと重ねあわされるのが、自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年だ。彼らが、新たな魂の物語を紡ぎだす。
「虐待を受け、いまも心に傷が残る女性が主人公。生きづらさを抱える人びとの、声なき声を描いた」(朝日新聞)作品だ。
町田さんは1980年福岡県生まれ。北九州市立高等理容美容学校を卒業後、理容院や菓子店などに勤めていたという。今も福岡県の田舎で暮らしている。2016年、「カメルーンの青い魚」で新潮社が主催する第15回女による女のためのR-18文学賞の大賞を受賞。17年に同作を含む『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』(新潮社)で作家デビューした。本書は初の長編作品だ。