コロナ禍でダメージを受けている「夜の街」。その中でも深刻なのが、デリヘル、ソープなど性風俗関連業だという。持続化給付金や家賃支援給付金など公的支援の対象から外されたことで訴訟も起きている。3度目の緊急事態宣言で、さらなる苦境が続く。
「誰もが性風俗の当事者」になりうる
2021年4月6日に刊行された『性風俗サバイバル ――夜の世界の緊急事態』 (ちくま新書)は、この1年あまり、コロナ禍で苦しむ性風俗業界の実情を内側から報告している。
「35万人の女性に何が起きたのか」という問題意識で、危機に直面した性風俗業界の女性たちが、世間からは煙たがられ、公的援助も頼れない中、いかにしのぎ切ったのかを伝える渾身のドキュメントだ。
著者の坂爪真吾さんは1981年生まれ。東京大学文学部卒。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。新しい「性の公共」を作る、という理念の下、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」などを通し、社会的なアプローチで現代の性問題の解決に取り組んでいる。
著書に『性風俗のいびつな現場』、『「身体を売る」彼女たちの事情』、『「許せない」がやめられない』などがある。
坂爪さんはもう15年ほど、風俗の現場で働く女性と毎日のようにメールやLINEでやり取りし、毎月のように各地のデリヘル事務所や待機部屋、託児所に出入りしている。本書の。第6章では「誰もが性風俗の当事者」になりうると指摘する。
「社会一般の道徳観念に反する」
給付金の「対象外」とされた性風俗業者が、国などを訴えた裁判も始まっている。
原告は、関西地方のデリバリーヘルス(無店舗の派遣型風俗店)運営会社。コロナ禍で休業したが、持続化給付金と家賃支援給付金の対象から外された。これは「法の下の平等」を保障した憲法に違反するとして、未払いの給付金や慰謝料など計約450万円を求めている。
朝日新聞によると、21年4月15日の第1回口頭弁論で国側は、1984年以降の国会答弁や判例をもとに「性風俗業は性を売り物とする本質的に不健全な営業で、社会一般の道徳観念にも反する」と主張した。災害時を含めて一貫して公的支援の対象ではなかった点も指摘した。
そのうえでコロナ給付金は「国民経済の発展の観点から行われている経済対策」で、性風俗業への支給について「国民の理解を得ることは困難だ」と強調。「対象外としたのは合理的な根拠に基づく区別で差別とはいえない」とし、憲法違反ではないと反論したという。
声を上げなかった人が動いた
国の主張は、「法の下の平等」に反するのか、それとも原告の事業自体が「社会一般の道徳観念」から逸脱するのか。
あるいは、こうした理念論争とは別に、現状を緊急事態と認識し、新型コロナという特異な感染症の拡大防止のため、特例として「風俗産業」にも給付金を支給する方がよかったのか。
読売新聞が「独自ニュース」として、「歌舞伎町で十数人感染」とクラスターを報じたのは2020年4月1日のこと。あれから1年が過ぎ、3度目の緊急事態宣言も出る中で、「夜の街」「性風俗」をめぐる問題は未解決のままだ。
ちなみに「夜の街」に関しては、昨年6月刊行の『新型コロナと貧困女子』(宝島社新書)もある。主として、最初の緊急事態宣言下の歌舞伎町をルポしたものだ。著者の中村淳彦さんはノンフィクションライター。貧困や風俗などの社会問題をフィールドに取材を続けていることで知られる。
対して、坂爪さんは実際の支援活動に長年携わっており、業界の内側に詳しい。孤立と貧困に苦しむ女性たちを助けるために、これまで声を上げなかった人たちが声を上げ、動いていたということも、『性風俗サバイバル』では報告している。