終わりに近づくにつれ技巧的なパッセージ
ラフマニノフは、1902年に幼少より仲の良かった従姉妹のナターリャと結婚します。その同じ年に、詩人E.ベケートワの詩にメロディーを付けた歌曲として、「リラの花」を作曲したのです。作品21の12曲の歌曲の5番目として書かれたこの曲に、特別に愛着があったのでしょうか、後の1913年頃に、これを得意のピアノ独奏曲に編曲します。ピアノ編曲版は、冒頭からメロディーと伴奏を複合的に弾いて歌曲をそのまま踏襲していますが、終わり近づくにしたがって原曲の歌曲から少し離れて、彼らしい技巧的なパッセージを追加し、華やかなピアノ曲として締めくくっています。
露ではまだ早春の5月、リラの花が咲き乱れる中に一生の大切な幸福を探しにゆく・・という歌詞の内容の通り、ラフマニノフ自身の人生とも重なる、可憐な歌曲であり、ピアノ曲です。日本の桜も、人の心を動かしますが、ラフマニノフの「リラの花」もこの季節にしみじみと花を愛でながら聴きたい名曲です。
本田聖嗣