「恋人親子」復活 山田詠美さんはその不気味さに日本の退行を思う

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父親の精神性

   ジンジャーは幻冬舎の女性ファッション誌で、読者層は20代後半から30代とされる。山田さんの随筆はアラサー女性たちに呼びかけるスタイルで、毎回ラフに書き進む。

   彼女が「気持ち悪い」「不気味」と感じたのは、娘が年頃になっても「俺の恋人」と公言する父親の精神性である。これが高じると、「俺の目に適う男を連れて来いよ。その場で判定してやるから」みたいな、娘のプライベート領域に土足で踏み込んでくる父親像となる。昭和期のホームドラマでは、それがひとつのスタンダードだった。

   他方、広告の制作者は「恋人、娘」の設定が商品の訴求力を高めると考えた。クレカの広告は昭和末期から平成初期だが、筆者が問題とするのは、ほぼ同じコンセプトが令和の今に復活したことだ。いつまでも「娘ばなれ」しない父親ではたまらんぞ...と。

   父親と娘、母親と息子。その関係性は家族によるだろうが、クルマやクレカの広告のような付き合いを理想とするのは、娘に恵まれなかった私もどうかと思う。男女とも、ひとりで風呂に入るような年齢になったら、親としては子離れの準備が必要だろう。

   いい年をした娘との入浴を自慢するような親父もいるから、人それぞれではあるが。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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