「交響曲の父」ハイドンの本当の凄さ

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見事な「職人仕事」に徹する

   こう書くと「形式に則ってただ書いただけ」という簡単な作業に聞こえますが、実際には、同じメロディーの繰り返しばかりにならぬよう、徐々に変化を加えたり、リズムや和音に少しだけ色をつけ加えたり、と様々な技法が凝らされているのですが、ともかく、ハイドンは、器楽で、あるメロディーを作り上げたら、それをソナタ形式に当てはめて、複数の楽章・・大抵は4楽章です・・・を持つ曲を、多くは依頼主の注文に応えて作り続けたのです。

   ソナタ形式のピアノ曲はそのまま「ピアノソナタ」と呼ばれますが、オーケストラの場合はこれが「交響曲」と呼ばれます。大げさに言えば、ハイドンの作曲には、神秘的な霊感とか、神の啓示とか、哲学とか、思想性とか、他人が書いた台本、そんなものが介在する余地はおそらく大変少なく、まさに「職人仕事」として、調和の取れた、聴いていて楽しい音楽である「交響曲」を量産し続け、単純な数だけで比較したら、モーツァルトの約2.6倍、ベートーヴェンの11.8倍もの膨大な数の交響曲を残したのです。

   彼は、同じ作曲技法を駆使して、素敵なオペラ作品も10作品以上、オラトリオも名作を残していますが、交響曲の洗練された量産ぶりの前にはかすんでしまい、「交響曲の父」という称号で呼ばれることが圧倒的に多くなっています。

   現代では、「思想性」や、「哲学性」、「独創性」などが中心的な価値として論じられがちなクラシック音楽ですが、ハイドンの交響曲は、ある意味そんなものとは対称的な「見事な職人仕事」だったために、モーツァルトも、ベートーヴェンも、キャリアのはじめにはハイドンから大変な影響を受けたのです。ハイドンがいなかったら、モーツァルトも、ベートーヴェンも、違った作品を生み出していたかもしれないのです。そういう意味で、ハイドンは、やっぱり「父」なのだと思います。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミエ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラ マ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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