未だ「終息」が見えないコロナ禍。苦況に喘いでいる業界は数多く、「祭り業界」もその一つだ。2020年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、全国各地の祭りが過去に例のない「中止」に追い込まれた。21年の祭り開催も、先行き不透明な状況が続いている。
祭りが中止になると、屋台でおもちゃ販売する露天商、そしておもちゃを卸す問屋も商売先がなくなり、厳しい状態に置かれる。
「その日食べる分を確保するので手いっぱい」
例えば愛媛県の松山街商協同組合。21年2月18日開催の「椿まつり」に一切出店せず、「この夏もどうなるか、先が見えない」という。
松山街商協同組合は主に愛媛県中予地区と大洲市を活動範囲に、祭りやイベントなどで屋台を出店している。同組合の理事である村瀬端親さんによると、「例年、三日間連続で開催される『椿まつり』には、全国から40~50万もの人が集まる」。会場をにぎわせる露店の数も数百に上る一大イベントだと説明する。
だが直近の「椿まつり」は、出店を見送る判断をした。出店を中止にするよう要請されたわけではなかったが、新型コロナウイルス感染拡大を防止するためだ。最後に出店した大きな祭りは20年1月末開催の「椿まつり」。以来昨年は「年間通じて、あれほど『何もない』なんて、まさに未曾有の事態だった」と村瀬さんは話す。
3密回避やアルコール消毒など感染対策をしつつ、愛媛県の郷土料理の名を冠した「いもたき祭り」や、車に乗ったまま屋台の商品を買える「ドライブスルー屋台」を7月、8月に企画し、客が来てくれたが、「例年の売上には追いつかない」。村瀬さんの知る露天商の中には、冬の間、地元のスーパー店頭でテイクアウト商品を売ったり、別の仕事で稼ぎを得たりと、「とりあえずその日食べる分を確保するので手いっぱい」だったそうだ。
「4、5月の祭りも中止になっていて、どうなっていくかはわからない。祭りを開催しても、客足が急に戻ってくるとは思えません。県の意向に従い、感染状況を見ながらイベントを行って『感染者を出さずに終える』という成功例を積み重ねていくしかないかなと考えています」
全国を見渡すと、20年の祭り開催は中止になったが、21年は何とか開催へ向けて準備を進めているところもある。例えば「青森ねぶた祭」。毎年8月に開催される。
青森観光コンベンション協会の担当者に、改めて20年の「中止判断」の経緯を取材すると、2月、3月と新型コロナウイルス感染症が広がり、全国的に学校の臨時休校、不要不急の外出自粛などが広がった。全国的にイベントの規模縮小や中止が多くなって、4月8日の青森ねぶた祭実行委員会の会議で早めに「中止」を決定したという。
21年の祭りは、「現時点では開催する予定で準備を進めていこうとしている段階」だ。担当者によると、開催についての詳細を協議している最中で、運営方法など具体的なことは未確定。3月下旬以降に詳しい内容が決まる予定だという。
3月下旬から4月にかけての花見などはどうなるのか――。さらには花火大会や全国的に祭り開催が増える夏を控え、緊急事態宣言下にない地域でも「お祭り業界」は不安な状態が続いているようだ。
一度消滅してしまった祭り「復活はほぼ不可能」
玩具問屋からも悲鳴が上がっている。堀商店(愛知県名古屋市)の成瀬昭則さんによると、20年は全国各地で祭りやイベントが中止になった影響で「一般的に、祭りの最盛期である6月~8月(地域によっては秋の場合もある)の売上は、前年の約25%ほどしかありませんでした。祭りで定番のお面などの縁日系商材についても振るわず、例年の10%~15%ほどしか販売できていない」。同社代表すら経験したことがない危機的状況だと話す。
取引のある露店商の中には、数名だが既に廃業した人がいるほか、21年も同じような状況が続けば「廃業するしかない」と漏らす人がいるという。イベントや祭りが中止になると、売上が「減る」のではなく「ゼロ」になる苦しみが伝わってくる。
成瀬さんは「あまり考えたくないこと」としつつ、もし21年も各地で祭りが開催されなかった場合には「昨年も販売しましたが、家庭で楽しめる祭りグッズのラインアップを強化して、皆さんの意識から『お祭り』の灯が消えないよう訴求していく」と語る。
「祭りは人が集まって、ただわいわいするイベントではなく、地域の経済や観光業界に多大な影響を与えます。『去年も今年も中止だね』だけでは済まず、日本の文化として長年続いている伝統的な祭りなどが消滅してしまう可能性があります。一度消滅してしまった祭りは、復活させることがほぼ不可能です。一人でも多くの人に『お祭り業界がピンチ』だと認識してもらえたらと思います」