「考えること」について考える

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■『教科書では学べない数学的思考:「ウーン!」と「アハ!」から学ぶ』(著:ジョン・メイソン+リオン・バートン+ケイ・ステイスィー、訳:吉田新一郎 新評論)

   かなり以前のごく一時期の話になるが、子どもたちと一緒に算数や数学に取り組んだことがある。子どもたちには、算数や数学の知識や技術を知って使いこなせるようになるだけでなく、問題を解くことを通じて数学的な考え方などを身につけてほしいと思っていた。

   自分が子どものころ勉強したときのことを思い出してみても、どの公式にあてはめればいいのだろうと一生懸命思い出してみたり、試行錯誤で答えらしきものにたどり着いてそれでほっとしたりしたことがあったが、数学的思考についてどのように伝え、教えたらいいか、これがなかなか難しかった。

   そんなときに参考になると思っていたのが、John Mason with Leon Burton & Kaye Staceyの" Thinking Mathematically"(1982初版、2010第2版)で、今回取り上げるのは、2019年に刊行されたその和訳(以後「本書」)。書店でみかけて、懐かしさを感じながら手にとった。

思考の特徴的な瞬間をとらえる

   評者の考えるところではということだが、すぐに答えにたどり着けそうにない問題に出会ったとき、人は、まず、小さな数字で具体的に計算してみたり、次元をひとつ減らしてみたりして、特殊な場合でどうなるか試してみようとするだろう。そして、いくつか集めた具体例から一般的な法則は見いだせないか推測してみようとするだろう。物事には何らかのパターンや構造のようなものがあるのではないかと思うからだ。

   何かしらの推測らしきものができると、今度は、それが正しいか証明してみようとするだろう。そして、次には、その証明を(なるべく)批判的に検討してみようとするだろう。人間の行う推論の過程には、隠れた前提、二義性、数え落としなどが潜んでいることは珍しいことではないからだ。

   本書では、あまり教科書では出会わないような数学的な問題(そのひとつひとつがなかなか面白い)に取り組みながら、特殊化(Specializing)、一般化(Generalizing)、予想する(Conjecturing)、証明する(Justifying)といった主な数学的思考の「プロセス(Processes)」が示される。また、問題に対して今自分がどのような場所に立っているか(「段階(Phases)」:入り口(Entry)、取り組み(Attack)、振り返り(Review))を確認しつつ、考えが行き詰まっているときの(ウーン!(Stuck!))という気持ちや、何かに気づいたときの(アハ!(Aha!))という気持ちが描かれる。そして、振り返りや内省(Reflect)あるいは考えている自分について考える(Monitor)ことの大切さが語られる。

   思考の過程は複雑で個人的なものだとは思うが、297ページの本書を読めば(問題の中にはかなりアタマをひねるようなものもあるので骨の折れる作業ではあるが)、考えるということがどういうことかをかなり具体的な言葉やイメージ(概念図)を伴って感じとることができると思う。

   訳者によると、学校や大学で算数・数学を学ぶとき、やっていたことはひたすら「正解あてっこゲーム」だったという。「なんとかせねば!」といろいろな本を探してようやくみつけたのが本書の原著だったということだ。本書には、あちこちに、訳者と翻訳協力者等との意見交換などから得られたコメント、率直な疑問、アイディアなどが「訳者コラム」として掲載されていて、本書の楽しさを増している。

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