「パワー!」。お笑い芸人のなかやまきんに君が、ひたすらその言葉を繰り返すだけのウェブCMが、再生回数20万回を超えている。
視聴した人からは、「この案を企画し採用した人たちは正気なのか?」、「なぜか毎日見にきてしまってる」といったコメントが寄せられている。このユニークかつ「中毒性」の高いCM制作の舞台裏を取材した。
増殖するきんに君
真っ赤な背景に、焼肉のホットプレートが乗った食卓と、それを見つめるきんに君...という構図でCMは始まる。社名も商品名もなく、何のCMか正直わからない。しかも全36秒のうち約25秒は、きんに君が焼肉に向かって、熱く「パワー!」と連呼するだけの内容だが、ツイッターで「スキップしなかった広告」だと話題になっているのだ。
CMの正体は、たれ、スープ、粉末調味料などを製造販売するダイショー(東京都墨田区)が公開した「食卓に、パワーを届けて55年。」編‐Aタイプだ。同社の焼肉のたれ「焼肉一番」を、ダイショーのユーチューブ公式チャンネルで宣伝している。
ユーチューブで動画を見る際、意図せずCMが流れるとわずらわしさから「スキップ」する人は少なくない。にもかかわらず、視聴者に毎日見にくるとまで言わせるCM――。広告宣伝担当者によると、
「『この先どうなるんだ』と、最後まで展開が気になる作りを意識しました。終盤まで会社の情報が全く出ず、どこのCMかわからない内容で...『何も考えていない』かのようですが、実はそういう工夫をしています(笑)」
具体的には、「きんに君の増殖」だ。初めは一人だったきんに君が、画面左からもう一人、更に画面右からも、もう一人現れて最終的に三人での「パワー!」大合唱になる流れが、あまりにもワケがわからず「いったい何を伝えたいのかと、気になって見入ってしまう」のだ。
やがて「食卓に、パワーを届けて55年。」というフレーズが浮かび上がり、「焼肉一番」が紹介されて始めて、きんに君の叫びが腑に落ちる。