ファンベース 鎌田實さんは常連を大切にする店がコロナに克つと説く

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ホンモノまでが呑み込まれ

   不景気のときほど客の数より質がモノをいう。マーケティングでよく言われることだが、コロナ禍という不景気を超えた非常時には、同じ真理がより強くあてはまる。「ファンベース」の活かしどころである。鎌田さんは佐藤さんとの出会いをマクラに振り、実例を並べ、この鉄則を説いている。

   コロナは飲食、旅行観光業界を中心に、売り上げ「蒸発」ともいうべき打撃を与えた。「上位のファン」の層が薄く、「通りすがり」への依存度が高い店ほど苦境である。

   早いもので、佐藤尚之さんの『ファンベース』(ちくま新書)が売れてから3年がたつ。コロナ禍という極限状況で、この思考が見直される意味は小さくない。

   同時にこうも思う。コロナはホンモノとニセモノを峻別する機会には違いないが、地域や常連に長らく愛された営みをも呑み込む規格外の災禍となっている。飲食や宿泊部門を中心に、小さくてもオンリーワンの店がたくさん消えたのは痛恨きわまりない。

   この現実と鎌田さんの結論を足し合わせて言えるのは、コロナ後も残る店はかなりの確率で「ファンベース」なんだろう、ということくらいである。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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