まるで見てきたかのような音楽の物語
ドビュッシーは、このイスの街の伝説を、一人の主人公が、ブルターニュの海を見つめていると、伝説の街が海中から姿を著し、鐘楼から、鐘の音が鳴り響く圧倒的なクライマックスを形作ったあと、再び水中に没した街からかすかに鐘の音が聞こえる・・・という、まるで見てきたかのような音楽の物語として構成しています。そのため、「前奏曲」という短い曲の曲集でありながら、この曲だけは5分以上も演奏時間がかかる、大規模な曲となっています。
ちなみに「イス」の街は、フランス語では「Ys」と表記しますが、地元ブルトン語では「Is」と綴ります。そして、フランス語の「~によって」、つまり英語の「By」に当たる前置詞は、「Par(パール)」と表記するので、「イスの街によって」という言葉を書いてみると、「Par」+「Is」パール・イス、となります。そう、実は、続けて書くと「Paris」=パリ、となるのです。仏の首都パリは、中世の伝説の都市Isの影響によって作られた・・・もちろん、これはまさに「物語」の世界なのですが、ちょっと面白くありませんか?
そんな想像を膨らませながら、聴きたい1曲が「沈める寺」なのです。
本田聖嗣