プロ野球は、春季キャンプたけなわだ。今シーズンも、新監督を迎えたチームがある。
そのひとつ、東北楽天ゴールデンイーグルスは石井一久ゼネラルマネジャー(GM)が監督を兼任している。ただ石井氏は、プロ野球でこれまでコーチや監督の経験はゼロだ。このように、プロでの指導者経験がないままいきなり監督に就任するケースは、米大リーグや他のプロスポーツでもあるのか、スポーツジャーナリストに聞いた。
専門教育を受けた人がその職に就く
12球団のうちプロでの指導者経験なしで監督に就いたのは、現在では石井新監督のほかに栗山英樹監督(北海道日本ハムファイターズ)、工藤公康監督(福岡ソフトバンクホークス)、井口資仁監督(千葉ロッテマリーンズ)がいる。
J-CASTトレンドは、スポーツライターの小林信也氏に取材した。米大リーグ(MLB)でも、指導者を経験していない人が監督になるケースは存在する。一方で日本に比べ、コーチやマイナーリーグでの監督経験者が、メジャーの監督になるパターンが全体としては多いと説明した。
1つの理由として、米国社会でのキャリアには、専門的な教育を受けた人がその職業に就くといった「杓子定規」な面があると小林氏。こうした背景から、「コーチをイチから勉強して監督になる」考え方が、一般的に日本よりも存在すると話す。
またMLB選手は10年間コンスタントに登録、プレーを続けると、日本円で約2000万円の年金が老後に支給される。レギュラークラスで長年活躍した元選手なら、現役時代はガッツリ稼げるうえ、引退後も年金のおかげで生活の心配はなさそうだ。そうなると、このレベルの人物は「よほど指導に対して情熱や適性を感じていない人」でないと、無理に監督という選択肢を選ばないと語った。
比較して、日本では金銭面の理由から引退後の人生を真剣に考えなければならない。そこで球団から監督になるよう頼まれた場合には、本人が適性を感じていなくとも引き受ける場合があるようなのだ。
誰が優秀な指導者かわからない
また、日本の球団経営の方針には、スター選手を監督に据え、それを中心にチームの人気を高めていく考え方が存在するという。
さらに小林氏は、「理論」にも原因があると指摘する。野球ではバットやボールの握り方1つをとっても、明確な理論や指導理論が確立しておらず、理論を学べる学校も存在しない。だから、「誰が優秀な指導者なのかすらわからない」わけだ。そこで、有名な元選手を監督にして話題を提供することが多いという。ただ、指導理論が確立していないのはMLBも同じ。米国でも指導経験のない人気選手を監督にする場合があるのは、こういった事情が関係しているのかもしれない。
対照的なのはサッカー界だ。日本サッカー協会は「指導者ライセンス」を制定しており、最高ランクの「S級コーチ」を持たないとJリーグや日本代表の監督になれない。
小林氏によると、ライセンス制度では指導理論や戦術のほか、救急時などの対応もマニュアル化されており、ライセンスの取得には協会の講習を受け、習得する必要がある。同様の制度は、サッカー先進地域の欧州にも存在している。