2021年2月13日深夜に発生した震度6強の地震では、毎日新聞によると、「工場で爆発」などという不確実な情報がツイッターなどで飛び交ったという。災害のたびに同じようなことが繰り返されている。インターネットでは間違った情報が一気に拡散しがちだ。特定の個人が袋叩きに合うようなこともある。
「一億総加害者社会」に警鐘
近く発売される『ネット社会と闘う ~ガラケー女と呼ばれて~』(さはらえり著、リックテレコム刊)は、2019年夏に起きた「常磐自動車あおり運転事件」で、暴力を振るった男の同乗者--「ガラケー女」に間違われた著者が、ネット上のデマ、誹謗中傷との闘いを振り返ったものだ。
事件に巻き込まれた当日から、弁護士との出会い、記者会見、民事訴訟など、時系列に出来事をまとめるとともに、被害者にしかわからない視点でネットとの付き合い方、SNSとの向き合い方を記している。
同じくネット上のデマや誹謗中傷に苦しんだタレントのスマイリーキクチ氏、2017年の「東名高速あおり運転事件」で、犯人の家族と誤認され、やはり闘いを続けている石橋秀文氏との対談、担当弁護士へのインタビューも収録している。「一億総加害者社会」に警鐘を鳴らす1冊だという。2月27日刊行予定。価格は1300円+税。
ユーチューバーを提訴
本書の「常磐自動車あおり運転事件」を巡るトラブルは、まだ継続しているようだ。ちょうど2月16日の朝日新聞が近況を伝えている。「ガラケー女」とのデマを流された女性(この記事では名前は書かれていない)が最近、ユーチューバーの男性を、110万円の賠償を求めて提訴したというのだ。
同紙によると、この男性は約18万人のチャンネル登録者を持っている。女性が事件と無関係であったにもかかわらず、「共犯、こいつ」などという動画を配信、視聴回数は約3万回。女性のところには、多いときは一日約280本の迷惑電話があったという。
女性はこの事件で、すでに同様のデマをSNSに投稿したとして愛知県の元豊田市議を提訴、東京地裁は名誉棄損を認め、33万円の賠償を元市議に命じているという。
偽情報は名誉棄損罪、信用毀損罪などに相当する可能性がある。16年の熊本地震で「動物園からライオンが逃げた」と投稿した神奈川県の男性は、動物園の業務を妨害したとして偽計業務妨害容疑で逮捕されている。
仮処分申請も急増
ネットは匿名といわれているが、一定のやり方で追跡すると「容疑者の特定」が可能だ。
ネット犯罪に強いことで知られる弁護士は近年、『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル(第3版)』(中央経済社)や、『サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル 第3版』(弘文堂)などを出版、被害者の支援に熱心だ。
前著には、「東名高速あおり運転事件」のケースも登場する。ネットにデマ投稿した11人が特定され、示談に応じなかった8人に対して民事訴訟が起こされたという。
誹謗中傷への対処が、抗議や訂正・削除・謝罪要求などで収まらないケースは増え続けている。間違った情報に基づくリツイートなども、裁判沙汰になり、名誉棄損などに問われるケースが増えているのが最近の傾向だ。東京地裁が扱ったネット関連の仮処分申請は、08年には35件しかなかったのに、17年には755件に急増しているそうだ。