根底に流れている「優しさ」の理由
初めてのベストアルバム「SEKAI NO OWARI 2010~2019」は2枚組全30曲。DISC1は2010年4月に出たインディーズ時代の1枚目のアルバム「EARTH」の一曲目「幻の命」で始まっている。歌われているのは「生まれなかった命」だ。病院で「死んだ」幻の命に対しての「僕からの賛美歌」。デビュー曲やアルバムのテーマ曲が「死」だったメジャーなアーティストは荒井由実しか思い浮かばない。
彼らが取り上げている「命」は、「人間」に限らない。DISC1の2曲目「虹色の戦争」は、やはりアルバム「EARTH」の二曲目だ。
生物達の虹色の戦争
貴方が殺した命の歌が僕の頭に響く
「花」や「虫」などの生物達にとっての「戦争」。それは、自分たちを殺す人間と戦うこと。その「戦争」は世界中の誰もが「知っている」のに世界中が「感じない」戦争である。
そんな歌にかつての70年代のヒッピーたちが唱えていた「自然志向」や「Love&Peace」を重ねることも出来るかもしれない。5曲目の「Love the wars」では、こうも歌っている。
ラブandピース 美しい世界 幸福な世代
僕たちは確実にな「何か」を失った
アレ?ちょっとなんか変だ僕たちは何を忘れてる?
あ、そうだ「LOVE」はどこ
バブルに一直線だった1980年代生まれ。何が正義で何が悪なのか。教科書的な一元論や美辞麗句のスローガンでは解決しない。体制反体制のようには単純には分けられない。
「僕らはいつも『答』で戦うけど 2つあって初めて『答』なんだよ」と歌うのはDISC1の4曲目「天使と悪魔」だ。
4人の関係性の中でそうした「世界観」を言葉として共有しているのが詞を書いているFukaseとSaoriだろう。
インタビュー集「SEKAI NO OWARI」の中のSaoriの「深夜に『死刑論についてSaoriちゃんはどう思う?』みたいな電話がかかってきたり。そういうことばっかり話してたからずっと真面目に考えてたなって思う」(p299)という高校時代のFukaseについての話は象徴的だった。
杓子定規な高校を中退してアメリカに留学したものの精神を病んでしまって帰国、強制的に入院させられていたFukaseにとっての「世界の終わり」。そこから始まるという意味で彼にとって一番ポジティブな言葉がバンド名になったという話も広く知られている。DISC1の7曲目「銀河系の悪夢」は、その頃のことを歌っている。
人から分かってもらえないことがどのくらい絶望的なことなのか。DISC1は彼らの音楽の根底に流れている「優しさ」がどこから生まれてきたかを物語っている。