コロナの教訓 林真理子さんは余計な欲は持たないことにした

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残るのは本質

   「セレブ日記」の趣がある林さんのエッセイ。海外旅行に舞台鑑賞、高級店での飲食を含む訪問先でのあれこれ、華やかな交友関係の中で生まれる話題が自ずと多くなる。コロナ禍でネタ切れになりはしないか、なんて心配は余計なお世話で、堂々の健筆が続いている。本作も、欲望に忠実かつ正直に、妙な格好をつけずに書いている。

   かつては「私もブランド葬儀所で」...それが今や「余計な欲は持たない」という落差。林真理子に欲を捨てさせた(敬称略)この一点をもって、コロナが現代社会に与えたインパクトの大きさが分かろうというものだ。

   最後に付け足した「ちょっと寂しいが」の本音も彼女らしい。

   冠婚葬祭の中には、実質より形式、当事者の喜怒哀楽よりも世間体を意識したものが多々ある。なかでも「葬」にはそれが目立つ。遺族の悲しみが形式美で癒され、ひと区切りつく面はあっても、そもそもコスパは決してよくない。ご両親の葬儀を経験した林さんが、簡素化の流れは止まらないと確信するゆえんである。

   コロナは、本当に必要なものと、そうでもないものを冷厳に仕分けした。親しい人の結婚式や誕生祝いに出られず、代わりに「祝いそびれ」の花束を贈る人が増えたというニュースがあった。一方で「小さなお葬式」のCMもよく目にする。カタチにこだわらなければ、いや、こだわらないほど実質が残るのかもしれない。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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