世界自然保護基金(WWF)ジャパンは、2021年2月13日にシンポジウムを開催した。人、動物、生態系の健康をひとつと捉える「ワンヘルス」がテーマだ。
当日は、秋篠宮皇嗣殿下や小泉進次郎環境相、WHOなどの国際機関がビデオメッセージを発信したほか、国立環境研究所の五箇公一氏ら専門家が講演を行なった。
自然との付き合い方を見直す時にきている
最初に、WWFジャパン事務局長東梅貞義氏が「本シンポジウムを人と野生動物・自然環境のつながりを見直す機会にしたい」とあいさつした。続いて、環境大臣の小泉進次郎氏が「感染症は、人間・動物・生態系全体に関わる問題であり、人々がそれぞれ正しい理解をし、連携していくことが不可欠だ」とビデオメッセージを寄せた。
シンポジウム第1部では、次のパンデミックを防ぐためのワンヘルスについて、京都大学名誉教授の山極壽一氏、長崎大学熱帯医学研究所教授の山本太郎氏らが熱く語った。40年以上アフリカでゴリラの調査をしてきた山極氏は、
「さまざまな感染症に出会ったが、なかでもエボラ出血熱には強烈な印象がある。潜伏期は1~2週間で、飛沫感染であるところは、新型コロナウイルスに似ている」
と説明した。
発展途上国で感染症対策に従事してきた山本氏は「With コロナ時代の見取り図」として、「新型コロナウイルスの起源は、野生動物にあることが強く疑われている。原因は、ヒトと野生動物の距離が近くなったことにある」と話し、自然との付き合い方を見直す時にきているのかもしれない、と見解を述べた。
行政、専門家などが連携していくことの重要性
第2部では、WWFジャパン野生生物グループの浅川陽子氏や環境省⾃然環境局野生生物課⿃獣保護管理企画官の立田理一郎氏が生物多様性と感染症について話した。
浅川氏は、国内法で輸入が禁止されている希少な動物の密輸が起きている、と問題提起。「こういった輸入が、新型コロナウイルス感染症のような新興感染症の発生に関与している可能性もある」と指摘した。
立田氏は、「生物多様性行政と感染症」と題し、生物多様性の4つの危機に合わせて事例を紹介した。
今回のシンポジウムでは、ワンヘルスを実現する上で生態系の健康を損なわせる可能性のある人間社会の在り方を見なおし、行政、専門家などが連携していくことの重要性が確認された。