ピアノロールの録音で分かった楽譜と違う作曲者の意図 ドビュッシー「沈める寺」

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「楽譜の2倍速」で演奏

   しかし、現代の多くのピアニストはそのように演奏していません。慣例として、きっちり「楽譜の2倍速」で演奏することがほとんどですし、私もCDや演奏会で、そのように弾いています。

   その根拠は、奇跡的に、ドビュッシー自身の「録音」が残っているからなのです。とはいってもエジソンの発明した蝋管式でも、そのあと登場し世界を席巻したアナログレコード方式でもありません。紙に孔を開けることによってピアノの鍵盤を動かす「ピアノロール」という方式でした。初期のアナログレコードのように「編集不可能、一発録り」ではなく、ロールを完成させる時点で「編集された」可能性もわずかながら排除できないのですが、それでも、おそらく、ドビュッシー自身が、自分の楽譜に表記されたテンポと違う速さで弾いていた・・・ほぼ倍速で・・・ということは、音楽の流れから考えてもほぼ間違いない、と現代では断定されています。

   なぜ、「沈める寺」の楽譜のある部分が「超絶遅くなる表記」のまま世に出てしまったかは、未だに謎です。単にドビュッシーの勘違いなのか、フランスではよくある手稿譜から印刷譜に変換する時点でのミスなのか、今となってはわかりません。しかし、上記のような経緯で、「楽譜は遅いのだが、世界的な演奏の流れはその2倍速」という珍しい曲となっています。頻繁に演奏される名曲でも、このようなミステリーが存在します。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミエ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラ マ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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