東京五輪組織委員会の森喜朗会長の発言が「女性蔑視」だとして大きな問題になっている。2021年1月15日刊の本書『女性差別はどう作られてきたか』(集英社新書)は偶然、ほぼ同じタイミングで出た関連書籍だ。2月上旬段階で「Amazon 売れ筋ランキング」の「女性史」で1位、「女性問題」で2位にランクインしている。
「家父長制」の視点で読み解く
よく知られているように、日本は「ジェンダーギャップ指数」で世界の下位にいる。そんなこともあり、社会の様々な場面でしばしば「女性差別」が表面化する。医科大学での女性受験生一律減点問題など記憶に新しい。なぜ、日本は女性を不当に差別する社会なのか――。
著者の中村敏子さんは1952年生まれ。東京大学法学部卒業。政治学者、法学博士。北海学園大学名誉教授。
主な著書に『福沢諭吉 文明と社会構想』『トマス・ホッブズの母権論――国家の権力 家族の権力』。翻訳書に『社会契約と性契約――近代国家はいかに成立したのか』(キャロル・ぺイトマン)などがある。
本書は長年ホッブズや福沢諭吉研究に携わってきた著者が、女性差別が生まれるまでの過程を、政治思想史の観点から分析。西洋と日本で異なるその背景を「家父長制」という概念をもとに読み解いている。
「現代の日本につながる問題」
ジェンダーやフェミニズムにもとづく新たな社会的理念は、20世紀後半になって世界的に公認された形になっている。しかし、過去の男性中心主義の時代に育った人は、簡単には適応できない。頭では重要性を理解していても何かの拍子に本音を口走ってしまう。森会長の「女性蔑視」とされた発言などはその一例だ。
本書は「第I部 西洋における女性差別の正当化根拠――神・契約・法」、「第II部 日本における女性差別の言説と実態―――儒教・「家」・明治民」に分かれている。「第II部」では「明治国家による家父長制形成の試み」「夫婦関係から始まる理想社会の構想――福沢諭吉の文明社会論」「現代の日本につながる問題」などが取り上げられている。
エッセイストの小島慶子さんは、「ジェンダーの観点から思想史を読み解く、平易で明快な筆致に引き込まれます」と推薦文を寄せている。
類書では、『近代皇室の社会史』(吉川弘文館)などもある。明治、大正期の様変わりする「家族」の問題を「皇室」という角度から迫っている。大正天皇が、明治天皇と異なり、「側室」を持たなかった理由などを、社会の変化という視点から克明に論じている。
また、『「許せない」がやめられない―― SNSで蔓延する「#怒りの快楽」依存症』(徳間書店)は、現代社会で横行する様々な「バッシング」や「怒りの爆発」の根源を、「ジェンダー」をキーワードに分析しているところが新鮮だ。