現代のAIによる著作権管理と、実はかなりいい加減だった出版黎明期の著作権

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「売るために」有名作曲家の作品と偽る

   そして一方、厳密に原典版印刷譜を管理しているはずの出版業者も、著作権的な考え方からほど遠いことを行う場合も多々ありました。

   「売れる楽譜」を作るため、たとえば、人気作曲家の作品を「水増し」するために、他の無名作曲家の作品を数楽章だけ紛れ込ませて1曲に仕立て上げたり、楽譜には作曲家の苗字だけしか慣例として記されないため、きょうだいや親子の作品を意図的に紛れ込ませたり、その過程でスペルミスが起こってしまい、まったく別人の作品となったり、またはその逆で無名の作曲家の作品を「売るために」わざと有名作曲家の作品として偽って出版したり・・と、現代の感覚から考えたらあり得ないほど「なんでもあり」の状況が存在したのです。

   また、面白いことに、現代でも権利に対して反抗的な雰囲気が強いパリなどでは、「正当な著作権許諾版より海賊版の方が多い」と形容された出版状況も存在したのです。W.A.モーツァルトもパリを訪れたときに、楽譜屋の店頭に父レオポルド・モーツァルトの仏語版ヴァイオリン教則本が置かれているのを見つけて嬉しそうに手紙に記していますが、著作権手続きがちゃんと行われたものなのかは、知る由もありません。

   機械やソフトウエアに、どんな小さな楽曲単位でも「著作権違反」を指摘・管理される現代から見れば、なんともおおらかで適当な時代でした。しかし、その中から、「人気作品」が生まれ、「人気作曲家」が誕生し、現代に生き残る「クラシック音楽」を形作ってきたのです。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミエ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラ マ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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