お父さんの育休取得で夫婦の絆が深まる?
「イクメンの経済学」では、カナダのケベック州の育休改革を分析した研究から、改革前後で、父の育休取得率が21%から75%へと大幅にアップし、平均育休期間も2週間から5週間へと長くなったことが示される。改革前に1時間半だった父親の1日の子育て時間は改革後には1時間50分になり、家事時間も1時間10分から1時間25分になったという。(たった)1か月の育休が父親のライフスタイルを変えた(!?)ことになる。
さらに、2001年から2003年にかけて父親だけが取得できる3か月の育休の仕組みを導入したアイスランドの研究では、制度変更前後で、出産5年後時点での離婚率が23%から17%に低下したという。お父さんの育休取得で夫婦の絆が深まったということだろうか。
本書の面白いところ(良いところ)のひとつは、それぞれの調査・研究の限界、分かったこと・分からないこと、データには様々な解釈があり得ること、そして、まったく逆の結果が得られた調査・研究もあることなどが合わせて紹介されているところだ。アイスランドとは逆に1995年の育休改革前後で離婚率が上昇したスウェーデンの研究や、幼児教育が社会情緒的能力に影響なしとみられたデンマークの研究があることなども示されている。
著者によると、本書は、「結婚、出産、子育てにまつわる事柄について、経済学をはじめとしたさまざまな科学的研究の成果をもとに、家族がより「幸せ」になるためのヒントを紹介」するものだという。科学的根拠だけで、私たちがどう生きるべきかを決められるわけではないし、すべての物事には良い側面もあれば、悪い側面もあって、それらを総合的に考える必要があるとする。
家族の幸せは価値観やおかれている状況によって多様だ。若い世代が、通説とされるものや神話に惑わされたり振り回されたりすることなく、のびのびと結婚、出産、子育てができることが重要だと思うのだが、そのためにも、目の前の選択肢について自分なりにデータをもとに科学的に考えてみること、自分たちにとってはどうするのが良いかを総合的に考えてみることが若い世代に広く浸透して欲しいと思うし、若い世代を見守るべき世代もそうした姿勢の大切さを良く理解しておきたい。
著者の山口慎太郎さんは 東京大学経済学部教授。
F