レノンの「イマジン」がモチーフ
彼が再び、ステージに立ったのは2017年3月11日、東日本大震災の復興コンサートの時だ。
「最初は出来ませんと言ったんです。ほんとに怖かった。恐る恐るでしたけど、こんなに崇高な場所に立たせてもらっていたんだと思えた。今もそうですけど、J-POPの潮流とかじゃなくて自分の居場所があるんじゃないか、と思えた」
新作アルバム「次世界」初回盤についているドキュメンタリーは、8月15日に大阪の服部緑地野外音楽堂で行われたライブに始まり、去年のその後の彼を追ったものだ。
東日本大震災の9年後の福島、朱鷺の飼育を進める佐渡島、焼失した首里城の復元につとめる沖縄・那覇。それぞれゆかりの街に住む友人を訪ねるというプライベートな旅。アルバム「次世界」にも、沖縄民謡の「白雲節」に自ら詞をつけた「白雲の如く(白雲節)」がある。
「沖縄民謡は他の民謡の中でもラブソングが多いのが特徴なんですが、あれは、その典型なんですね。霧の向こうの島にいる人に会いに行けない。僕も7か月間も沖縄に行ってないのは初めて。前から好きで歌ってみたかった曲が自分の気持ちのように思えて、どうしても歌いたかった」
新作アルバム「次世界」は、立ち止まって自答しているようだった前作「留まらざること川の如く」とは少し違う。コロナ禍を経験する中で「作品」として伝えたいこと。「引退」後の心境の変化という意味では明らかに二枚が「対」になっている。
「百年に一度の嵐が 通り過ぎた朝のように」で始まる「歌いだせば始まる」は、彼自身の「復帰」とコロナ後の世界が重なり合う。タイトル曲「次世界」はジョン・レノンの「イマジン」がモチーフだ。
「人間って、いつもこうなるといいね、ということを夢見てきたと思うんです。それが現実になってきた。手塚治虫さんのような漫画家も宇宙飛行士もそう。僕が言うのもおこがましいですけど、ジョン・レノンの『想像してみようよ』という言葉が改めて素晴らしく思えて。今だからこそ未来を想像してみようと。その中で出てきた言葉が『次世界』でした」
「次世界」には、こんな一節がある
羽ばたいてみるんだ 羽ばたいてゆくんだ
国境のない世界へ 貧しさの対義語がお金ではない世界へ
君を連れていくんだ 手を握りしめてゆくんだ
ジョン・レノンが待っている世界へ 未来しかないあの世界へ
争うことに必死だった時には思いを巡らせることもなかった「世界」。「引退」したからこそ見えてきた道。「新しい生活様式」の後、僕らは、そして人類はそんな「次世界」に向かっていけるのだろうか。
(タケ)