コロナ禍で読み直すべき一冊
今年は、東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の事故から10年目となる。この事故の反省を踏まえ、財団法人日本再建イニシアティブ(当時)から2013年3月に世に問われたのが「日本最悪のシナリオ 9つの死角」(新潮社 現在は電子書籍のみ)である。
本書は、「第1部 最悪のシナリオ」で、尖閣衝突、国債暴落、首都直下地震、サイバーテロ、パンデミック、エネルギー危機、北朝鮮崩壊、核テロ、人口衰弱という9つのテーマについて「最悪のパターンを描くことで、現在の日本の社会が抱える問題点を明らかにしたい」としていた。「パンデミック」は今読むととても生々しい。このパラグラフで、「英語のクライシスの語源がギリシア語で決断を意味する言葉だとし、危機は瞬時に決断できるかだ」という医師のことばを印象的に使い、スペイン風邪の時代から、感染症致死率は国や地域で大きく異なるとし、「知事の迅速な決定能力、リーダーシップ、平時の医療の質、公衆衛生への取り組み、メディアとの協力による広報・・・」などで命運を分けたとする。
「第2部 シナリオからの教訓」では、我が国における危機対応の実情を踏まえ、法制度、官民協調、対外戦略、官邸、コミュニケーションの視点で課題・提言事項をまとめている。そこでは、レジリエンス(復元力)が重視されている。「日本は、『防災先進国』ではあるが、『レジリエンス先進国』ではない」と断じている。
「おわりに」で、財団法人日本再建イニシアティブの理事長で、元朝日新聞主筆の船橋洋一氏が、「危機の際、権力者は国民のパニックを怖れる余り、脅威を発する事象そのものではなく、制御できなくなるかもしれない国民を脅威の源泉と見なすことが往々にしてある。それは"エリート・パニック"現象として知られている」と戒め、危機管理の第一人者の言葉を引いて、「危機において、国民は決して『お荷物』なのではない。国民は『資産』なのである」という。
このコロナ危機にもう一度読み直すべき価値ある1冊だ。船橋氏のようなリアリズムにたった分析を行うジャーナリストが朝日新聞から去り、情緒的な紙面が増えてきているのは長年の読者としてあらためて残念に思う。
経済官庁 AK