領土内の居心地
苅谷さんは経済学者ではなく、教育格差の研究で知られる社会学者だ。コロナ絡みでは昨年、一斉休校を機に検討された「9月入学」についての発言も多かった。
コロナ禍のもと、各国でナショナリズムが高まる傾向にある、という考察自体は目新しいものではない。とはいえ筆者は、短いコラムの中でその理由を分析し、従来との違いを解説し、今後の展開を予測する。要点が手際よくまとめられ、収まりがいい。経済誌のコラムだけに表現は少し硬いが、それでも学者の文章としてはこなれている。
感染拡大を防ぐために国境を閉ざす→視線が内向きになりナショナリズムが高まる...このロジックは分かりやすい。国内の矛盾や難題から目をそらす従来型のナショナリズムは、外敵を作って国民の結束を訴えるのが常道で、今回は趣が異なる。
本来ならハリウッド映画のように、地球的危機には人類が結束して立ち向かうべきだが、見えない敵を相手に、各国はそれぞれの領土内、それも都市部を中心に局地戦を続けている。ハリウッド映画ならリーダーシップをとるであろう米国大統領が、不幸にも「自国第一」の人物だった巡り合わせで、小さなナショナリズムが世界に拡散した格好だ。
領土内の居心地を競う人類。ウイルスは「知ったことか」と国境を越える。
冨永 格