プロメテウスに共感
そして、1801年に、ベートーヴェンは生涯ほぼ唯一のバレエ音楽、「プロメテウスの創造物」を作曲しています。直接のきっかけは、作曲家ルイジ・ボッケリーニの甥でもあったイタリア人の舞踊家・振付師、そして作曲家でもあったサルヴァトーレ・ヴィガーノがウィーンでの公演にあたって、当地ですでに有名だったベートーヴェンに音楽を依頼したことでした。しかし、最高神ゼウスの命令に背いて、天界から火を盗み、その他・医学、数学、科学そして、音楽など文明の道具をも人類に与えることによって、ゼウスから永久に罰を受け続けることになったプロメテウスは、「孤高の天才」「人類に対する啓蒙の使者」のメタファーとして最適であり、ベートーヴェンもかなり共感を覚えていたはずです。
残念ながら、バレエとしての「プロメテウスの創造物」はあまり成功を収めることができず、現在では序曲のみが独立して頻繁に演奏されます。しかし、ベートーヴェンの「不屈の精神で困難に打ち勝つ超人」というテーマは、これ以後の他の作品にも多く見られ、彼の作品の一つの大きなモチーフとなってゆきます。
本田聖嗣