日本の漫画やアニメについての文化論は多いが、声優まで含めたものはまだ少ないようだ。2020年12月末に刊行された『アニメと声優のメディア史――なぜ女性が少年を演じるのか』(青弓社)は、サブカルチャーに詳しい石田美紀(みのり)・新潟大学経済科学部教授(専攻は視聴覚文化論)が、声優にまで射程を伸ばした斬新な論考だ。
性も年齢も超える
野沢雅子、小原乃梨子、田中真弓、緒方恵美、高山みなみ......。アニメの少年を女性の声優が演じるのは、日本アニメの特徴だという。こうした配役はどのようにして生まれ、アニメ文化に何をもたらしてきたのだろうか――というのが本書のテーマだ。
少年を演じる女性声優を軸にアニメと声優の歴史をたどり、日本が独自に育んできたアニメと声の文化を描き出す。子役起用が難しいという制約から始まった少年役に女性声優をあてる配役は、魔法少女もの、アイドルアニメ、萌えアニメ、BLなどのアニメの変遷とともに多様な広がりを見せてきた。性も年齢も超え、恋愛対象としての「イケボ」の青年まで演じる女性声優は、外見とキャラクターとの差異やジェンダーのズレから、視聴者に独特の欲望を喚起してきたという。
みんなに愛される少年から女性が恋する青年までの女性声優を切り口に、アニメと声優のメディア史を考察している。