クリスマスライブは2月配信
時間が経ったからこそ実現する出会いがもう一つある。アルバムから先行配信された「君に逢いたいだけ」は、「ひとり咲き」をアレンジした瀬尾一三が手掛けている。デビューから80年代の半ばまでに最も深くかかわった、いわば「師匠」的存在だった。
瀬尾一三は、2020年2月、初の書籍「音楽と契約した男」を発売、その発売イベントの対談の相手に指名されたのがChage。その話の中で瀬尾の方から「またアレンジしたい」とリクエストされて実現した。
「『ひとり咲き』の時のことは今も覚えてますからね。瀬尾さんはレコーディングをすべて立ち会ってくれたんですけど、アマチュアの僕には何をやろうとしてるのかわからなかった。瀬尾さん、間違ってると思ったりしてました。彼もその時のことを覚えていて。Chageが難しい顔をしてたって。僕、顔に出るんです(笑)。でも、ストリングスが入ったら見違える曲になって。この人すごいな、プロというのはこういうことなんだと思いました。瀬尾さんにアレンジしてもらう、と思って作ったのが『君に逢いたいだけ』ですね」
「君に逢いたいだけ」の中には、下北沢という地名も出てくる。若かった頃にそれぞれの行きつけの同じ店があったのだそうだ。
一枚のアルバムの中の人間模様。6曲入りミニアルバムでありながら、それぞれの曲に今だから出来る「遊び」が詰め込まれている。「僕だけのピンナップガール」は、84年のヒット曲、石川優子と歌った「ふたりの愛ランド」のスピン・オフ。つまり副産物。今なら書けると思ったという曲だ。吹っ切れるまでに36年かかったことになる。
「大の大人が楽器抱えて遊んでる。『ひとり咲き』があったからこういう出会いになってる。Chage&Askaをやってきて良かった。40何年かかったことになりますよね」。
インタビューも終始笑いが絶えない。打てば響くような答えが返ってくる。それは根っからのお祭り好きな博多っ子の気質でもあるのかもしれない。
もう時効ではあるのだろうが、そんな彼の姿で忘れられないのが、96年にChage&Askaのロンドン取材でビートルズゆかりのアビーロードスタジオを訪れた時のことだ。
感極まったようだった彼は、やおら取り出したマジックでスタジオの塀に"Chage参上"と書いて少年のような笑顔になった。
12月23日、東京・六本木のビルボード東京で「クリスマスライブ」を見た。一曲目はアルバムの中の「Swing&Groove」だった。ちょっとレトロな陽気なスイングのリズムが今後の彼を予感させた。
客席は半分で全員がマスク姿。リアクションは拍手のみで歓声も合唱もなし。それでも彼のウイットに富んだトークには控えめな笑いも起きる。彼は、フェイスシールドも着用した最前列に向かって「俺は人よりも唾が飛ぶからね。飛沫の刃だね」と言ったのだ。筆者も思わず声を出して笑ってしまったことは言うまでもない。
横浜で行われたクリスマスライブは、2月に配信で公開される予定だ。
(タケ)