お弁当の歴史を古代にまでさかのぼり、徹底解剖した『日本のお弁当文化――知恵と美意識の小宇宙』(法政大学出版局)が2刷になっている。オールカラーで多種多様な「お弁当」が紹介され、器や食の作法にも注目している。
コロナ禍で「お持ち帰り」にシフトする飲食店や、テレワークでの昼食づくりに頭を悩ます人たちに参考になりそうだ。
世界に広がる
和食が世界無形文化遺産に登録され、近年ますます国内外から注目されている日本の「お弁当」。庶民のエネルギー源であり美意識の表現でもあったお弁当は、どんな歴史を歩んできたのか。それが本書のテーマだ。全体は七章に分かれている。
序章の「世界が注目する日本のお弁当文化」では、近年、パリにも「お弁当」が販売されるなど、海外でも日本のお弁当が注目されていることを紹介している。
第一章「『働く力』とお弁当」では、「里の民」「山の民」「海の民」のお弁当を分析、「田植え」「木こり」「マタギ」「漁師」など農林業の現場で古くから必需品だった歴史を紐解く。「戦う人々の携行食」では、珍しい「打飼袋」「芋茎縄」「兵糧丸」などを伝え、江戸時代の庶民の「腰弁当へと」つなげる。
弁当は日常のみならず、「ハレの日」の必需品でもあった。
第二章「花見弁当 季節や自然を楽しむお弁当」では、平安貴族や秀吉の花見が登場。折詰、重箱など什器の解説にも広がり、日本の四季や季節と自然が、「お弁当を楽しむための舞台装置」となってきたことを明かす。
第三章「観劇弁当」では、「芝居と一体化して楽しむお弁当」についてたっぷり論じられ、第四章は「駅弁」。さらに第五章「松花堂 おもてなしのお弁当」など近現代へと続いていく。
「弁当男子」も登場
第六章「食の思想とお弁当」で「神饌」など食文化の奥の深さを探究。第七章「社会の変化とお弁当」では、「超高齢化社会を迎えて──お弁当宅配サービス/療養食や健康食の宅配弁当」、「中食」産業の急伸、「持ち帰り弁当」、「仕出し弁当」、「おせち」の取り寄せ、さらには「企業向け宅配弁当の躍進」、「お弁当ブログ」「キャラクター弁当」、「弁当男子」の登場にまでトピックが広がっている。
まさしく日本の「お弁当」についてのすべてがてんこ盛りだ。日本人の日常生活にすっかり溶け込んだ「お弁当」について、改めて理解を深めることができる内容となっている。2020年4月の刊行以来、主要全国紙や食の専門誌、週刊誌など多数のメディアで取り上げられている。先人たちの知恵と工夫が詰まった本書は、コロナ禍での私たちの食文化や食生活を見直す一助にもなりそうだ。
著者の権代(ごんだい)美重子さんは1950年生まれ。日本女子大学卒業、立教大学大学院修了。日本航空国際線客室乗務員・文化事業部講師を経て、ヒューマン・エデュケーション・サービス設立。1997年より(財)日本交通公社嘱託講師、国土交通省・観光庁・自治体の観光振興アドバイザーや委員を務める。
2009年より横浜商科大学、文教大学、高崎経済大学の兼任講師(ホスピタリティ論、アーバンツーリズム、ライカビリティの心理と実践など)。
価格は2200円(税別)。