なんだか人恋しく
過去の結婚記念日のうち、松任谷さんが覚えているのは2回くらいで、あとは祝ったかどうかも含めて覚えていないそうだ。まあ、そんなものか。しかし2020年の記念日は「なんとか覚えておきたい」という。特別な年の、特別な日だからである。
結婚記念日や誕生日は、何十回と重ねるうちにマンネリ化し、新鮮さは薄れていく。ところが、コロナ禍という未体験の生活環境は、それぞれの「年中行事」に新たな意味を与えた。「密」を避けるということで、大人数での寄り合いは難しくなる。あらゆる行事について中止や延期が検討され、「軽い」と判断されたものから省略された。
しばらく会えない人が増え、だれもが人恋しいロマンチストになった。「生存確認」の儀式のようになっていた年賀状が見直され、虚礼だとナメていたことが実は地味ながら役割を持っていた、なんてこともあった。
限りある人生の、限られた1年。コロナは「大事なもの、大事でないもの」をふるいにかけた。結婚記念日が大切という人がいれば、法事はやっぱり欠かせないと考える人もいる。それぞれの取捨選択を経て、忘れられない、かけがえのない映像が残される。
冨永 格