「帰れない2020年」だからこそ
こんな選曲は二度とないと思わせるのはDISC2の「寄り添い盤」も同様である。
一曲目が75年のデビュー曲「あざみ嬢のララバイ」なのだ。デビュー曲だから選ばれているのではない。「ひとりで 眠れない夜は あたしを たずねておいで」という歌いだしだ。
そして、二曲目は80年のアルバム「生きていてもいいですか」の中の「泣きたい夜に」と続いている。89年に始まった「夜会」の一回目の一曲目が「泣きたい夜に」だった。「泣きたい夜に 一人はいけない あたしのそばにおいで」という歌詞がある。
「あたしを たずねておいで」と歌う「アザミ嬢のララバイ」と「あたしのそばにおいで」と歌う「泣きたい夜に」。「寄り添い盤」だからこその選曲だった。
中島みゆきがデビュー以来一貫して歌ってきたこと。それは「救済と再生」なのだと思う。「時代」の歌詞を借りれば「今日は別れた恋人たち」や「今日は倒れた旅人たち」を主人公にした歌。報われることのなかった愛情や思うところにたどり着けなかった人生という旅。世の中の不条理や強いものに対しての激しい憤りを歌った曲も多い。セレクション・アルバム「ここにいるよ」は、「エール」と「寄り添い」という言葉で彼女の中の最も「慈愛」に満ちた歌を選曲している。
DISC1の「ホームにて」は、訳があって故郷へ帰れない人の歌だ。DISC2の「帰省」は、都会で暮らす人の中で「8月と1月」の「帰省」がどういうものなのかを歌っている。それも「帰れない2020年」だからこそだ。
DISC1の最後は2000年の総力応援歌「地上の星」だ。DISC2は、DISC1のそんな締めくくりを更に愛おしいものにしている。12曲目の「風の笛」は、こんな詞だ。
「つらいことをつらいと言わず
イヤなことをイヤとは言わず
吞み込んで隠して押さえ込んで
黙って泣く人へ
言葉に出せない思いのために
お前に渡そう風の笛」
2枚組26曲の最後の曲、DISC2の13曲目は「誕生」だ。この世に生まれてきたことを祝福する歌。「めぐり逢う命」と「わかれゆく命」。人は誰も「もいちど生きるため 泣いて来た」。2021年がどんな年になるのか。世界はもう一度生き直せるのか。
コロナ渦での「再生の願い」が、最初で最後のセレクション・アルバムとなった。
(タケ)