カス丸 はーい、ぼくカス丸きゃすう。ついに今年最後のGI、グランプリ・有馬記念(2020年12月27日、中山競馬場、芝2500メートル)だじぇい。それにしても今年は人間さまの世界も大変だったけど、馬の世界も無敗3冠馬が牡馬と牝馬で登場したり、その3冠馬3頭がジャパンカップで激突したり、白毛馬が史上初のGI制覇を成し遂げたり、100年に一回あるかないかのトンデモレースが次から次へと続いた年だったきゃすう。そして、最後の締めくくりとなる有馬記念も超一流馬がたくさん参戦して大激戦だじぇい。どれが勝つかさっぱりわかんないきゃすう。カスヨ姉さんの本命◎はフィエールマン、ガジュマル爺はラッキーライラックだけど、なんだか他に勝ちそうな馬がたくさんいるじぇい。とりあえず、競馬歴100年以上の爺から聞いてみるきゃすう。
キセキの出方次第でいくらでも展開変わる
ガジュマル爺 カス丸、こういう時は過去を振り返って平常心で考えてみることが大切じゃ。まず有馬記念のコースじゃ。距離は2500メートルと長い。コースがトリッキーじゃな。中山は内回りと外回りがあるんじゃが、このレースは第3コーナーから外回りのほうに少し入り込んだ場所からスタートするんじゃ。じゃからスタート直後に第3コーナーを回る恰好になり、すこし下りながら第4コーナーを回って直線に入るんじゃ。中山の直線は310メートルと長くないんじゃが、それがクセモンでゴール直前に2メートル以上も上がる急坂がある。そして第1コーナーに入るんじゃが、ここが第2コーナーまでずうっと上り坂になっておる。コーナーを過ぎると向こう正面は下り坂じゃ。そしてスタート付近の第3コーナーを回って、さっき言ったようなコースを通ってゴールを駆け抜けるというわけじゃ。こんなに起伏のあるコースは、日本では他にあまりないんじゃ。コーナーも6か所あるから当然、レース展開によってまぎれが起きて、実力どおりには決まらないことも結構あるんじゃ。とはいえ、だいたいのレースの傾向というもんがあるんじゃ。さっき言ったように、スタート直後にコーナーがあるから内枠が圧倒的に有利じゃ。一番外の8枠で勝った馬は過去10年皆無じゃ。2年前にシュヴァルグランが8枠15番で3着に入ったのが最高じゃ。つまり内枠の馬を選ぶことじゃ。次にペースじゃが、これもコースを見ればわかるとおり、ゴール前に急坂があって、さらに上り坂が続くように、前半はラップが遅くなるんじゃ。第2コーナーを過ぎた下りから徐々にスピードがついて、最後の直線勝負が多くなるんじゃ。中山内回りは一周1667メートルじゃ。ほぼ1700メートルとすると、最初のゴール通過までが800メートル弱。そこから100メートルほど走った第一コーナー付近がスタートから900メートルじゃ。つまり4ハロン半じゃ。JRA(日本中央競馬会)が取っているラップの記録をみると、ここまで55秒前後が多いんじゃ。ところが去年は52秒台。これはアエロリットが最初から飛ばしたせいじゃ。このペースに乗ったアーモンドアイは惨敗したわけじゃ。2年前はキセキが似たように飛ばしたので54秒台と、ここ2年は前半が速いんじゃ。そのキセキが今年も参戦しとるから、前半速くなるかもしれん。問題は前半が速いとどうなるかじゃ。去年は中団にいたリスグラシューが優勝。2着のサートゥルナーリアも中団。3着のワールドプレミアはなんと最後方から来とるんじゃ。絵にかいたように差し馬たちが上位を独占したんじゃ。2年前は中団にいた3頭が馬券になっておるんじゃ。ところが、前半が55秒前後なら中団から前にいた馬たちが上位に入っておるんじゃ。これははっきりしておることじゃ。つまり、極端に逃げる馬がいてペースが速くなると、差し馬が強く、そうでなければ先行馬が上位に残るという傾向があるんじゃ。 そこで今年はどうなるか、なんじゃが、キセキは2年前に飛ばして失敗しとるから、そんなに速くは行かんとわしは見とるんじゃ。キセキのいいところは、長くいい脚を使える点じゃ。これを生かそうとすれば、前半は抑えて、向こう正面の下り坂から飛ばし出すという、昔ゴールドシップが勝ったときのように、大まくりをするのが一番のはずじゃ。他の逃げ馬、バビットはどうするか。これはゆっくり逃げた時が勝利しているので、逃げても去年のアエロリットみたいには行かないじゃろ。となればペースは平均か、ちょっと早めじゃ。こうなると浮上するのが、ラッキーライラックなんじゃ。ラッキーライラックが勝ったレースは、ほとんど前半が遅めじゃ。しっかり脚を溜めれば、最後の爆発力はアーモンドアイがいない今、おそらく一番じゃろ。今春の大阪杯(GI、阪神、2000メートル)勝利はまさにそういうレースじゃった。2018年のダービー馬・ワグネリアンや18年の有馬記念優勝馬のブラストワンピースといった牡馬相手に、先行して抜け出したんじゃ。有馬記念の距離2500メートルという距離は、気持ち長い気がするんじゃが、先行有利のレース展開となれば、大阪杯でクロノジェネシスにも勝っておるし、エリザベス女王杯ではラヴズオンリーユーやサラキアを退けておるから、充実一途の今ならグランプリに手が届くじゃろ。父オルフェーブルも、このレースを勝って引退の花道を飾った。彼女も、このレースで引退じゃ。有終の美を飾り、アーモンドアイの仔との対決に夢をつなげてほしいもんじゃ。
カス丸 ふー、久しぶりに聞いた大演説だじぇい。でも、なんだか整理がつきそうな気もしてきたきゃすう。
菊花賞組か、春天組か、それとも
カスヨ まあ、爺の見立てはあくまで一つの見方よ。わたしの見方は、ともかく有馬記念は長距離戦だという点ね。過去の勝利馬をみると、圧倒的に菊花賞(GI、京都、3000メートル)か春の天皇賞(GI、京都、3200メートル)を好走した馬が多いのよ。その理由は爺が説明したように独特のコース形態にあるわね。起伏があって、しかも馬場も荒れているというコースだから、スタミナ、パワー、スピードの3拍子が揃ってないと勝てないのよ。フィエールマンはね、菊花賞、天皇賞(春)連覇と長距離GIを3勝している実績馬よ。昨年は凱旋門賞帰りで本調子でないにもかかわらず、アエロリットが作り出したハイペースのなか、3コーナーからロングスパートをかけて4着に粘りこむ競馬をしていたわ。天皇賞(秋)では上がり最速の、目の覚めるような末脚でアーモンドアイにあと一歩まで迫るといった切れ味も兼ね備えていて、混戦といわれる今回のメンバーでも1枚抜けていると思うわね。鞍上もルメールちゃん(クリストフ・ルメール騎手)に戻り、年間GI最多勝利更新という記録で1年を締めくくるはずよ。
カス丸 うーん、こっちも強そうきゃすう。爺の対抗〇はカレンブーケドールだじぇい。
ガジュマル爺 カスヨの話に付け足すと、前走ジャパンカップ(JC)というのも有馬記念には強いんじゃ。たとえば、6年前に勝ったジェンティルドンナじゃな。JCでは1番人気を背負ったんじゃが、4着。引退の一戦に有馬を選んで、初めての中山だったんじゃが見事リベンジしたんじゃ。3年前に勝ったキタサンブラックもそうじゃな。同じようにJCで1番人気で3着。リベンジの有馬で優勝じゃ。カレンブーケドールはJCで4着。1~3着が3冠馬だったんだから、相手が悪かったとしか言いようがないんじゃが、JCでもう少しという馬が好走する、というパターンにぴったり当てはまるわけじゃ。この馬は逃げて良し、差して良しの自在性がある。瞬発力もある。なんでGIを勝てないのかが不思議なくらいなんじゃ。2走前にオールカマーを使い、エリザベス女王杯をスキップしてJCに挑戦。JCが明らかにたたき台で、それでも4着に踏ん張るあたりがこの馬の凄さなんじゃ。アーモンドアイを管理していた国枝栄厩舎が、乗りなれた津村明秀騎手から、2018年にブラストワンピースでこのレースに勝った池添謙一騎手にスイッチして必勝を期しておるから楽しみじゃな。
カス丸 有馬記念は牝馬より牡馬の優勝が多いけど、最近は牝馬が強いきゃすう。カスヨさんの対抗〇も牝馬ラヴズオンリーユーだじぇい。
カスヨ この馬もなんで勝てないのか不思議なのよね。昨年のオークス以来勝ち星からは遠ざかっているんだけど、前走エリザベス女王杯では3着と復調をみせてきてるわよ。春はドバイ遠征が中止となり本調子ではなかったんだけど、前走を叩かれて状態は上向きよ。初の中山、初の2500メートルと克服しなければならないハードルはあるんだけど、「状態はオークス時に近い状態に戻っている」と調教師も強気よ。今回は人気が落ちることも予想されるから穴党のわたしとしては絶好の買い時ね。暮れの大一番で復活を期待してるわ。
グランプリ連覇へ! ファン投票1位クロノジェネシス
カス丸 さあ、ここからは穴馬候補だじぇい。暮れの大一番にファンは大金をつぎ込むきゃすう。JRAも馬連にはいつもより5%払い戻し率を上げると言っているじぇい。連対の有力候補はどの馬きゃすう?
カスヨ わたしの単穴▲はブラストワンピースよ。2年前の勝ち馬で、中山コースは2回走って2勝とパーフェクト。寒い時期の中山コースに強く、実績のある舞台で逆転まで考えられるわよ。ここ3戦は精彩を欠いているため、人気の盲点になるかもしれないし。1枠2番の枠もいいわ。現在関東リーディングの首位を走る4年目の横山武史騎手との初コンビも注目よ。 あとは、やっぱりクロノジェネシスなのよね。ファン投票1位。春のグランプリ宝塚記念をでは圧勝しているように、現役屈指の存在になっているわ。ゆとりのあるローテーションで好成績を収めているから、今回の天皇賞(秋)からの臨戦は、今年春の大阪杯 → 宝塚記念のように間隔があいているから好印象ね。ただし、初めての中山が少し気がかりだわね。 最後はサラキアよ。サラキアも有馬記念が引退レースね。この馬は、今年の夏以降の充実ぶりには目を見張るものがあるわ。2走前の府中牝馬ステークスで初めての重賞タイトルを取ると、続くエリザベス女王杯では後方から追い込んでラッキーライラックの2着だったけど、あと一歩でGIタイトルが手に届くところまで成長していたわ。ここ3戦はすべて上がり最速だから、引退レースでの一発もあるかもよ。
ガジュマル爺 わしはまずワールドプレミアじゃな。2019年の菊花賞馬。「強い馬が勝つ」といわれる菊花賞を制した勢いで、去年の有馬記念に挑戦。結果は、リスグラシューの3着だった。この馬も堅実で、8戦して着外(6着以下)は前走のジャパンカップ(6着)だけじゃ。しかも7戦すべて3着以内という成績はすごいじゃろ。その前走は有馬記念以来のレース。そこを叩いて、こちらが本番というローテーションは好感できるというもんじゃ。名手、武豊騎手が新馬戦からずーっと乗り続け、大切に育ててきたんじゃな。昨年は最後方から、一気の脚をみせたが、今回はもう少し前にポジションをとっていけば、十分に届くはずじゃ。 あとは3歳のバビットじゃ。有馬記念で相性の良い菊花賞からの参戦じゃ。1枠1番は、逃げ戦法をとるこの馬にとって格好の枠じゃ。7戦4勝2着2回と、連(2着以内)を外したのは前走の菊花賞(10着)だけ。3戦目で未勝利を脱出すると、今年7月のラジオNIKKEI賞(GIII、福島1800メートル)、9月の菊花賞トライアルのGIIセントライト記念(中山2200メートル)の重賞2連勝を含む4連勝を、いずれも逃げきってきたから今回も逃げるじゃろ。中山コースは、2走前のセントライト記念で経験済みじゃから自分のペースで行ければおもしろいと思うんじゃが。
カス丸 うーん、今年最後だじぇい。昔から有馬記念は自分の好きな馬を買え、と言われてきたきゃすう。ここは春のグランプリ・宝塚記念を勝ったクロノジェネシスが本命◎だじぇい。