料理は美学より実利 平松洋子さんは包丁とキッチンばさみの二刀流で

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頼れる仲間に

   文春の「この味」はこの作で461回目という長期連載。雑誌の格からしても、当代きっての「食」の書き手にふさわしい、いわば平松さんのホームグラウンドといえる。

   キッチンばさみは、調理器具としては地味である。単にはさみと言えば、もっぱら台所以外で使うほうを指す。料理専門誌ならともかく、読者層が広い雑誌だけに、筆者が一般的なハサミから書き始めたのは自然の成り行きだろう。

   そのうえで、大した期待もせずに購入したキッチンばさみが、やがて欠かせないアイテムになっていく経緯が描かれる。転機は韓国旅行だったと。確かに、巻物のような骨付きカルビを切り分ける焼肉店スタッフの手際は鮮やかだ。初めて見る外国人は違和感や滑稽さを覚えても、やがて平松さんのように「なるほど」と合点がゆく。

   食いしん坊には、作るほうも好きという人が多い。そして料理好きには、私はさほどでもないのだが、調理用具にこだわる向きが少なくない。

   作中、「勝ちの決まった空中戦」という威勢のいい表現が印象に残った。はさみはキッチンという戦場で意のままに動かせる手勢であり、仲間であるらしい。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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