大いに笑いこけた
まさに「勧進帳」なのは、そんな白紙の楽譜なのに、ベートーヴェンは譜めくりをザイフリートに指示するために、時々頭を振ったり、目配せをして、合図をするのです!通常の譜めくりは、演奏者の合図を待つだけでなく、譜面台の楽譜を目で追ってタイミングを図るのですが、この時の彼はさぞ困ったでしょう。白紙では、どこを弾いているかまるでわからないですし、ベートーヴェン先生は「今めくれ!」とばかりに、突然合図をするのです!まあ、譜面に書いていない、つまり頭の中の記憶だけで弾いているわけですから、譜めくりのタイミングが多少ずれても問題ない・・とも言えますが・・・。
気心知れた音楽家どうしの「勧進帳」タッグで、初演は無事に終わり、その後で、二人は大いに笑いこけた、と記録が残っていますから、ベートーヴェンはピアノ独奏パートを楽譜なしで余裕綽々で弾いてのけたわけです。ちなみに、この時は交響曲第2番の方が好評で、ピアノ協奏曲第3番は、賛否両論あったようです。
そのため、約1年後、今度は、ベートーヴェンの数少ない愛弟子、フエルディナント・リースがピアノ独奏のソリストとして、この曲を演奏するときまでには、ベートーヴェンは内容の手直しを行い、ちゃんと楽譜を書き上げたそうです。これが現在まで弾き継がれているバージョンとなります。
この時期のベートーヴェンは創作意欲に溢れ、「ピアノ協奏曲 第3番」の完成のあとは、ついに自ら「大交響曲」と書くことになる交響曲「第3番 『英雄』」の作曲に向かうことになります。
本田聖嗣