ベートーベンの「革命」
けれども、メルツェルにはすごい友人がいました。自称、「自分の発明したメトロノーム」を彼に披露したところ、「これは作曲家の考えたテンポを、演奏者に正確に知らせるまたとない装置である!」と興奮して、それ以後、自作の楽譜にメトロノーム表示を書き入れるようになったのです。
残念ながら初期のメトロノームはテンポの刻みが正確でなく、後世の演奏家は、その「疑問だらけのテンポ表示」に悩まされることになるのですが、この作曲家が、とにもかくにも「メトロノーム」という装置を自作の速度表示に活用したため、この装置の名前が一般化し、メルツェルが発明者だと言う説が定着し、以後の作曲家も、「レント」や「アレグロ」などの伝統的なテンポ表示の他に、メトロノームを使った表示を「4分音符=120」のように書き入れるようになったのです。
メトロノームを定着させたこの作曲家こそ、今年生誕250周年を迎えた、ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンその人です。彼の進取の気性は、音楽の形式や内容だけでなく、テンポ表示においても革命を成し遂げていたのです。
本田聖嗣